「出社回帰」の動きが目立つ中で、オフィスの作り方に注目が集まっている。リモートワークが定着した今、あえて出社する意味とは何か? どんなオフィスなら「出社したい」と思ってもらえるのか? 多くの企業が模索している段階だ。
テレワークを基本とするからこそ、社員が出社した際には快適に過ごせる環境を追求したい──そんな意図を、テクノロジー活用を通じて実現したオフィスが東京・恵比寿にある。
IT企業のアステリアが本社オフィスのキーポイントとしているのが、数十台ものカメラAIやIoTセンサーだ。オフィスの居心地やいかに? 現地で取材した。
同社オフィスでは5台のカメラAIと27個のIoTセンサーを設置。オフィスの状況をどこにいても把握できるよう可視化している。
これだけ聞くと大企業の広大なオフィスの話……と思われるかもしれないが、そうれはない。最大で15人ほどしか利用できない都心のオフィスだ。130人超の社員を擁する同社だが、テレワークが基本の働き方に移行したため、このコンパクトなオフィスを構築した。
オフィスに設置されているカメラやセンサーから、以下の情報を把握できる。
こうした可視化の取り組みで、3つのメリットがあった。
1つ目は、社員が「自分にとって快適な場所を選べる」ことだ。オフィスにあるそれぞれの座席やWeb会議ブースの利用状況を一目で分かるようにしており、さらには温度、湿度、Co2濃度も計測している。
同社はテレワークの働き方を採用しているが、拠点はオフィスと自宅だけではない。サテライトオフィス、ワーケーションのための軽井沢オフィス、そしてリモートでコミュニケーションに活用できるバーチャルオフィス「oVice」を含む計5つのうち、最適な環境を自ら選べることを重視している。
オフィスの状況が可視化されていれば「○○さんと△△さんが出社しているようだから行ってみよう」「人が多く、Co2濃度が比較的高めなので、恵比寿オフィスではなくサテライトオフィスに行こう」など、社員それぞれがより好ましい環境を選択できる。
2つ目は、総務もテレワークができることだ。「あの備品はそろそろ残り少なくなっているかも? 確認しなきゃ」と出社する必要はない。
例えば、荷物の発送に用いる伝票はセンサーで残り枚数を計測している。1枚単位で把握が可能で、補充が必要になるとSlackで通知される。冷蔵庫内のペットボトル在庫管理も同様の仕組みだ。通知を見た総務部以外の社員が、出社のついでに補充しておくこともあるという。
3つ目は、オフィスにいる社員、いない社員で連携が取れることだ。出社した社員はエントランスを通る際にカメラで顔認証され、社員全員が閲覧できるSlackチャンネルに自動で通知される。「今日は出社できないけれど、いる人に荷物の受け取りを頼みたい」というときは、Slackで確認して頼めばいい。
この他にも、同社のオフィスにはテクノロジーを活用した工夫が満載だ。詳細はITmediaのYouTubeチャンネル「TechLIVE」で紹介しているので、そちらもぜひご覧いただきたい。
オフィスに数々の仕掛けを用いているアステリアだが、テレワークを基本とする働き方を変える意向は、現時点ではない。
同社がを本社を恵比寿に移転したのは、2021年4月。以前の床面積から約4分の1に縮小したのは、コロナ禍をきっかけに始めたテレワークを継続していくという不退転の決意を表したものだという。
昨今の出社回帰の流れはその決定に対する逆風だが、社長の平野洋一郎氏は株主をはじめとする外部からの「本当にテレワークでいいのか」という声と「常に戦っている」という。土地や場所への依存性が高い状態はBCP(事業継続計画)の観点からもリスクであると捉えており、その考えを変えるつもりはない。
「社員にクリエイティビティを発揮してもらうために、ウェルビーイングは必須。自分で場所を選べる働き方も、そしてオフィスそのものもウェルビーイングに寄与するものであるべきと考え、カメラAIやIoTセンサーを活用している」(社長の平野洋一郎氏)
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