破格の「10%還元」即撤回へ ヤマダ積立預金が残した問題古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2024年12月06日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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必要な改革

 ヤマダ積立預金の事例から明らかになったのは、持続可能性を欠いた高利回り商品の危険性である。このような商品が再び市場に登場しないようにするためには、企業や規制当局がどのようなアプローチを取るべきかを検討する必要がある。

 まず、企業は現実的な利回り設定を行うべきである。ヤマダ積立預金のように、顧客の注目を集めるために一時的なプロモーションを優先しすぎると、事業の長期的な持続性を犠牲にする結果となる。

 顧客にとって魅力的でありつつ、企業が負担可能な範囲内で利回りを設定することが必要だ。例えば、還元率を適切に引き下げつつ、長期間安定して提供できる仕組みを構築することで、顧客の信頼を維持できる。

 また、株式の優待利回りなど他の金融商品における還元条件にも配慮しながら、特定のステークホルダーが過度に還元を受けすぎないように条件を設定することも求められる。

 同時に、顧客自身の金融リテラシー向上も必要である。今回のように、有名企業が元本保証で10%の高利回り商品を提供することが一般的になると「リスクゼロで年利10%利益が出ることが当たり前」と感じてしまい、年間の期待リターンが5%程度の株式投資などに興味を持たなくなってしまう可能性がある。

 これにより適切な利回り感覚が失われてしまう危険性があるだけでなく、投資詐欺などにもだまされやすくなる可能性がある。この点についてはヤマダ電機側だけでなく、金融庁などの規制当局や教育機関も、金融リテラシー向上のためのプログラムを提供し、消費者が賢明な判断を下せる環境を整備するべきだろう。

 最後に、還元率が高い銀行サービスの内容が適切であるかどうかを、事前に業界団体や金融庁などの監督機関が審査する仕組みを強化することを検討するべきだろう。

 今回の例が特におとがめなしとなってしまえば、悪意のある業者が「還元するつもりはなく、口座開設が集まった段階でサービスを終了しよう」と無謀な還元率の商品を大量に出してしまうことが懸念される。

 ヤマダ積立預金の停止は、金融商品設計における短期的な利益追求のリスクを浮き彫りにした。ヤマダ積立預金の還元方式自体は、顧客と企業双方にメリットをもたらす工夫が凝らされており、斬新な試みとして一定の評価はできる。

 高利回り商品としての継続性には課題があったものの、この方式を別の形で活用する余地は十分にある。企業はこのアイデアを基に、より持続可能で安定した施策を模索することが求められる。

 そして、当局においては自由な競争を前提としつつも、顧客が被害を受けないような体制を構築することが必要となるだろう。

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