この「トライアルオフィス」は、従業員だけでなく役員も利用している。役員であっても専用の個室はなく、従業員とともにフリーアドレス制で仕事を行う。春日氏は「役員をはじめ、従業員同士での交流が随所にみられるので、一定の成果は出ていると感じます」と力を込める。
また、堀氏が所属するコーポレートコミュニケーション部は、2025年8〜9月まで海外事業本部、開発企画本部と共に「トライアルオフィス」に入居していた。実際に入居した感想を堀氏は以下のように語る。
「今までは異なる事業部とそこまで顔を合わすことがなく、用があってもメールか電話をするぐらいでした。実際に顔を突き合わせて話すことで、仕事がしやすくなった側面があると思います。リアルな場の方がオンラインに比べ交流はしやすいですね」(堀氏)
オフィスを利用した従業員の中には「他の事業が身近に感じられていい」「交流頻度が上がった」というポジティブな意見がある一方で「他の社員が気になり、自分の仕事に集中できない」「自分の話す声が相手の仕事の邪魔になっていないか不安」などの意見もあり、今後はそうした意見を吸い上げていき、本社オフィスの内装レイアウト/運用オペレーションなどに生かしていくという。
従業員の働き方が変わるということは、上司と部下の関係性が変わることも意味する。「部下に任せたい」という上司がいる一方で、「部下の姿が見えないと進捗状況が分からず不安だ」という上司もいる。このあたりは、部署ごとに上司が働き方を決める必要がありそうだ。
また、移転後もオフィス戦略室の機能は存続し、新オフィス入居後は効果検証を随時行っていく予定だ。オフィス移転後の想いについて、春日氏は以下のように語る。
「新オフィス移転後は、より一層グループの一体感を高めていきたいです。一体感というのは数値化しにくいとは思いますが、『目的に対してどれだけ実現できているのか』などを、ある程度運用した後に計測していきたいです。その結果を踏まえて、促進する政策や活用できなかった機能の洗い出しなど、移転後も運用改善を繰り返していきたいと考えています」(春日氏)
新本社移転に向けて、スムーズなオフィス移転を実現するために設立した「トライアルオフィス」。すでにC・D区画での課題点はA・B区画で改善されていることも多く、従業員も徐々に新しい働き方に慣れてきているようだ。著者はオフィス取材を長くしているが、今回は、全体を通して“あまり特徴がない”ことに驚いた。これはマイナスなことではない。
結局、オフィスは新しい働き方になっても、何か目立つ什器・機能などを設置するのではなく、自然とそこにある場、ストレスなく働けることがやはり一番だなと強く感じた。再現性も然り。今回のオフィスは汎用性があり、当然同社の不動産業にも生かせるところがでてくるだろう。来年完成する予定の新本社はまだテーマ・コンセプトを設定中とのことだが、どんなオフィスになるのか今から楽しみだ。
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