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106万円の壁撤廃、3大都市圏では影響少ない カギは「社会保険加入」の影響

» 2024年12月23日 08時30分 公開
[佐藤敦規ITmedia]

 衆院選挙以来、話題になっている年収の壁。パート労働者などに社会保険料が発生する年収を指す言葉です。

 厚生労働省は2026年を目途に「106万円の壁」を、2027年には企業規模要件(従業員51人以上)を撤廃する方針を固めたと公表しました(参照:日本経済新聞「『106万円の壁』撤廃、26年10月に 政府案」)。

 巷(ちまた)では「政府による新たな増税」と評判が芳しくない施策ですが、廃止後に企業や労働者にはどのような影響があるのか? 社会保険労務士が解説します。

年収「106万円の壁」の企業規模要件が撤廃される(画像:ゲッティイメージズより)

106万と130万円の壁の違いは

 今回焦点となる106万円とは別に、社会保険に関しては「130万円の壁」も聞いたことがある人は多いでしょう。106万円の壁と130万円の壁はどう違うのでしょうか?

 その差は企業規模に起因します。企業規模によって適用される年収の壁が異なるのです。常時51人以上を雇用している企業では、社会保険の加入要件が次のように定められています。1〜4の要件を全て満たす場合、労働者を社会保険に加入させなければなりません。

  1. 週の労働時間が20時間以上
  2. 所定内賃金が8.8万円以上
  3. 2カ月を超える雇用の見込みがある
  4. 学生ではない

 2の所定内賃金とは、基本給や手当など毎月決まって支払われる給与を指し、残業代や通勤交通費は含まれません。月額の8万8000円の12カ月分は105.6万円で、四捨五入すると106万円。社会保険の加入要件の1つを満たすことになります。

 ただし、106万円を超えれば無条件で社会保険に加入させられるわけではなく、他の1、2、4の要件を満たしているかどうかで判断されます。賃金が月額賃金8万8000円を超えた時点ではなく、労働契約書を交わすなど、月額賃金8万8000円を超えることが決定したときに社会保険に加入する義務が生じます。

 例えば、雇用契約上では時給1200円・週18時間働いている人が、繁忙期などで週20時間働き、月の給与が一時的に9万6000円と8万8000円を超えたとしてもすぐに社会保険加入の義務が生じるわけではありません。

 では、50人以下の企業ではどうでしょうか。パート社員などの社会保険の加入要件は、次の条件をいずれも満たす場合です。

  1. 週の所定労働時間および月の所定労働日数が常時雇用されている従業員の4分の3以上である者
  2. 週の所定労働時間および月の所定労働日数が常時雇用されている従業員の4分の3以上である者

 時給1200円のパートで働く人が週30時間・月120時間働くと月に14万4000円ですので、年間で172万8000円を超えた場合には社会保険に加入することとなります。

 一見すると130万円とは関係なさそうですが、130万円を超えると配偶者や親の扶養から外れ、自ら国民年金や国民健康保険に加入しなければならなくなります。130万円の壁を超えても106万円の壁と異なり、上記2つの要件を満たさないと社会保険に加入できません。

3大都市圏では影響が少ない106万円の壁

 厚生労働省は、51人以上の企業において106万円以上という要件を廃止することを次のような理由から説明しております。

最低賃金の引き上げに伴い、週に20時間以上働けば、年収106万円以上を得られる地域が増え、必要性が薄れている                            

 例えば、東京都の最低賃金は1163円ですので、週20時間・月80時間以上働くと月の賃金は9万3040円と8万8000円を超えます。東京都、大阪府、愛知県など3大首都圏以外にも静岡県、広島県など12の都府県が週20時間の就業で月額8万8000円(年間106万円)を超える結果となっています。

都道府県別週20〜30時間就業する非正規職員と最低賃金(画像:厚生労働省「被用者保険の適用拡大及び第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる『年収の壁』への対応について2」PDFより)

 全都道府県の中で数こそ少ないもののこれらの地域で働く人は213万人と、20時間の就業で8万8000円を超えない地域の合計186万人を数では上回っています。来年以降も最低賃金は上昇していきますので20時間の就業により、月額8万8000円(年間106万円)を超える人の割合は増えていくでしょう。

 給与収入103万円の壁引き上げの代わりに国民の負担を増やすための施策という声もありますが、最低賃金のアップの実情を考慮するとそうは言いきれない面もあります。

企業規模要件の廃止は経営者にとって大きな負担

 ただし、2027年に予定されている51人を超える企業規模の要件の廃止は、企業側にとって大きな負担となるでしょう。社会保険に関して、企業側は半額以上を負担しなければならないからです。

 50人以下の金銭的な体力がない企業にとって社会保険料の負担は無視できないものですが、かといって最近の人手不足などの現状を考慮するとパート社員の労働時間を減らすことも難しいでしょう。

 労働者にとっては良い面もあります。50人以下の企業で働いていた年収130万円を超えていたものの社会保険の加入要件である週30時間に満たなかった人は、配偶者の扶養から外れ自ら国民年金と国民健康保険を支払う必要がありましたが、会社で社会保険に加入すればそれぞれの保険料を払わなくて済むからです。

労働者にとっては社会保険加入のメリットもある

 社会保険に加入しても給与からその分の保険料が引かれ、手取りが減ってしまうので変わらないと考える人も多いかと思われます。しかし社会保険に加入することにより、厚生年金をもらえるようになったり、国民健康保険の加入者にはない出産手当金や傷病手当金のような制度を利用できたりするようになるのです。

 厚生年金の支給に加え、働けなくなった場合に最長で1年6カ月もらえる傷病手当金は、労働者にとって安心できる保障でしょう。民間の医療保険も就業不能保険などはあるものの、入院や手術を前提とするものが大半を占め代替できるものが少ないからです。

 社会保険の加入により手取りが減るため、年収の壁ならぬ「年収の崖である」といった声も上がっていますが、労働者にとって106万円の壁については、保障が厚くなるというメリットがあります。

 中小・零細企業にとって労働者の社会保険加入に伴う負担分の増加が、経営に影響を与えるのは自明のことです。しかし社会保険への加入を採用面でのウリにしている企業もいます。制度変更を受け入れ、自社に変革の目を向けてみると良いでしょう。

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