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トップの役割が変わる──エクサウィザーズ社長が語る「AI時代のリーダー論」(1/2 ページ)

» 2024年12月24日 08時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 AIプラットフォーム事業やAIプロダクト事業などを展開するエクサウィザーズは、2025年3月期で創業以来初めて通期黒字化を達成する見通しだ。企業や自治体への生成AI導入をサポートするexaBase 生成AIや、DX人材を育成するexaBase DXアセスメント&ラーニングが急成長していることが要因で、他にも生産性向上などを実現するAIプロダクトを生み出している。

 エクサウィザーズが目指しているのは、AIを用いて社会課題を解決すること。顧客の課題解決から生まれた業種に特化したAIプロダクトを金融、自治体、小売、介護など幅広い業界に向けて提供している。ディー・エヌ・エー元会長で創業者の春田真社長に、エクサウィザーズがAIによって目指す未来の姿について聞いた。

春田真(はるた・まこと)エクサウィザーズ社長。京都大学卒業。1992年4月、住友銀行に入行。同行退職後、2000年2月ディー・エヌ・エーに入社、同年9月に取締役に就任。2008年7月、常務取締役に就任。2011年8月、取締役会長に就任。同社の上場を主導するとともに、大手企業とのJV設立や横浜DeNAベイスターズの買収などのM&Aを推進。2011年12月、横浜DeNAベイスターズのオーナーに就任。2015年4月ベータカタリスト設立。代表取締役就任。2016年エクサインテリジェンス(現・エクサウィザーズ)設立。2017年10月に代表取締役会長に就任。2023年4月より現職。TBSホールディングス社外取締役も務める

法人向けChatGPTが急成長も「まだまださわりの段階」

 エクサウィザーズが展開するAIプロダクト事業が好調だ。2025年3月期の中間決算では、売上高が前年同期比で154.6%増の12億7400万円に急成長した。他のAIプラットフォーム事業やその他サービス事業などと合わせて連結の通期では約100億円の売上高を見込んでいて、2016年の創業以来初めての黒字化を達成する見込みだ。

 AIプロダクト事業の柱となっているのが、DX人材を育成するexaBase DXアセスメント&ラーニングと、生成AI導入をサポートする法人向けChatGPTのexaBase 生成AI。どちらも大企業や自治体を中心に導入が進んでいる。2024年9月時点で、exaBase DXアセスメント&ラーニングの利用者は1914社の約26万人。exaBase 生成AIは672社が導入し、ユーザー数が6万人を超えた。

 特に1人あたり月額900円の基本料金で提供しているexaBase 生成AIは、有料サービス開始から1年あまりで法人向け生成AIサービスの分野で国内トップシェアの地位を確立した。それでもエクサウィザーズ社長の春田氏は、生成AIは「まだまだ本格的なマーケットにはなっていない」と述べ、さらなる拡大を見据えている。

 「exaBase 生成AIは6万人を超えるユーザーがいますが、契約していただいている企業の従業員数や自治体の職員数を足し合わせると、100万人以上いるはずです。そう考えると、たかだか6万人では本格的に使われているとは言えず、世の中的にはまだまださわりの段階でしょう。でも、生成AIを活用できる方法を示して、実例を積み上げていくことで、組織の中でもっと多くの人が使えるインフラのようなものになる潜在力はあると思っています」

導入社数とユーザー数の推移。exaBase 生成AIは672社が導入し、ユーザー数が6万人を超えた(以下エクサウィザーズ提供)

 春田氏がエクサウィザーズの前身となる、エクサインテリジェンスを創業したのは2016年2月。2015年にディー・エヌ・エーの会長と横浜DeNAベイスターズのオーナーを退任した1年後だった。「新しいテクノロジーとしてのAIに注目したから」と起業した理由を振り返る。

 「2015年にディー・エヌ・エーを離れたときに、やりたかったことの一つにAIがありました。もともと新しいテクノロジーが好きで、その中でもAIは今後のテクノロジーの中心になると思っていました。AIであれば投資も集めやすいし、ビジネスとしても失敗しないだろうと考えたのがきっかけです」

 「ただ、スタートアップの教科書に載っているような、領域を固めるようなことはせず、エンジニアを集めて、その中でやれることを増やしていこうと考えました。それは、まだAIが技術的に成熟しているわけではなかったからです。AIを使って何をするのかについては、ラフに構えていました」

 その後、2017年10月に、主に介護分野でAIを導入していたデジタルセンセーションと経営統合し、商号をエクサウィザーズに変更。春田氏は統合時から会長に就任し、デジタルセンセーションの取締役だった石山洸氏が社長を務めた。2023年4月から春田氏が社長に就き、石山氏はChief AI Innovatorの役職にある。経営統合した際に掲げたのが、AIを使った社会課題の解決だった。

 「ベンチャー企業同士の経営統合だったので、何をするのかを明確にしようと石山さんと話をしました。私はディー・エヌ・エーでいろいろなサービスを開発して、売り上げや利益をあげることにこだわってきました。石山さんはリクルートホールディングスで、デジタル化に取り組んできた人です。小さいサービスを作ってビジネス的にうまくいくようなことを、お互いやりたいわけではありませんでした」

 「ディー・エヌ・エーやリクルートができないことで、世の中に貢献できることを考えていたときに浮かんだのが、テクノロジーを使って社会課題に向き合っていくことでした。社会課題の解決には、プロダクトやサービスが必要です。生成AIというテクノロジーが進化していく中で、生成AIを導入したプロダクトやサービスを、領域を絞らずにどんどん作っていくようになったのが現在のエクサウィザーズです」

exaBase 生成AIの画面

使い勝手の良い生成AIのプロダクトを提供

 急成長を遂げているexaBase 生成AIは、大企業では業種を問わずに導入が進んでいる。全社的にというよりは、自社のDXを進める部門や、営業部門、人事など、部門ごとに導入が進められているのが現状だ。

 エクサウィザーズでは顧客ごとの課題を把握し、蓄積したデータをアルゴリズムで解析して、プロダクトやサービスを自動で改善している。これは同社が「AIぐるぐるモデル」と呼んでいるビジネスモデルだ。蓄積されたデータをもとに、業種ごとの汎用的な課題を解決できる新たなプロダクトも次々と開発している。

 このうち、営業の場面で使われているのがexaBase ロープレ。生成AIのアバターが顧客になって、リアルに近い形で商談をシミュレーションできるプロダクトだ。また、2024年12月から提供が始まったexaBase 面談要約では、顧客との面談の文字起こしや要約、分析をAIがリアルタイムに実行して、終了後に関係者に共有できる。

 約26万人が利用しているexaBase DXアセスメント&ラーニングは、30分もしくは60分で完成するアセスメントによって、DXリテラシーとDXスキルの両方を測定するもの。個人のスキルをスコアで表示するとともに、組織全体のDX人材の分布状況を可視化する。今後は蓄積したデータを分析して、各社の人事データを組み合わせることで、タレントマネジメント領域への事業拡大を検討している。

 こうしたプロダクトを提供する際に、エクサウィザーズがこだわっているのが「顧客にとっての使い勝手の良さ」だと春田氏は説明する。

 「生成AIの技術としては、ChatGPTやClaude、Geminiなどいろいろなものを組み合わせて使っています。技術を私たちが作っているわけではないので、そこで差別化をするのは無理です。そうではなくて、これらの技術をどのように活用すればユーザーにとって使い勝手がいいのか、どういうプロダクトを作ればユーザーに喜んでもらえるのかを常に考えています。お客さんにとっての使い勝手の良さにこだわっているのが、私たちのプロダクトです」

AIぐるぐるモデル
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