推し活グッズの販売以外にも、タワレコは店舗ごとにスタッフの「色」が出る販促活動が人気だ。例えば手書きのPOPや、店頭に来たファンが書き込めるノート、さらにはスタッフが自作したフリーペーパーを配布したり、私物を飾ったりする店舗もある。これらは「アーティストとファンをつなぐ」(長谷川氏)という使命の下であれば、現場の裁量にゆだね、本部から何かを指示することはほとんどないという。
「繰り返しになりますが、タワレコの強みは音楽やアーティストを愛するスタッフがいること。その『愛』や『好き』を、いかにお客さまへと伝えられるかがカギであり、そのためには自らの意思で動くことに意味があると考えています」
スタッフの熱がファンを呼び、一種の“聖地”と化す店舗も少なくない。長谷川氏が「タワレコの一つの到達点」と評する代表的な店舗が、名古屋市にある大高店だ。同店のスタッフには「SMAP」の熱心なファンがおり、手書きポップを駆使した特設コーナーなどを展開。全国からSMAPファンが集まるようになり、2019年には元メンバーの香取慎吾氏が訪問したことでも話題を呼んだ。
昨今は、コロナ禍で店やライブに行けなかった反動や、より影響力を増したSNSといった世相を店舗づくりに反映している。
「店内の一角を、商品の陳列ではなくアーティストのパネルを展示するスペースにしたり、小型店舗ではアクリルスタンドやアクリルキーホルダーなどのフォトスポットを作ったりしています。商品を買うだけであればオンラインの方が便利ですし、来ていただき、楽しんでいただけるような店舗を心掛けています」(長谷川氏)
ファンが店舗に集まれば、自然と推し活グッズを目にする接点にもなり、さらにSNSで発信することで、当初に描いた「コアからマスへ」という戦略も実現できる。ユニークかつ積極的にプロモーションへ取り組んでいる姿勢はアーティストや事務所などへも伝わっており、ライブ会場でのCD・グッズ販売を依頼されることも多いという。
直接的な売り上げではなく「応援する人を応援する」という点に立脚した取り組みが、こうして巡り巡ってビジネスの価値をも高めている点は、近年D2Cブランドを中心に話題となった「売らない店」に近い部分があるといえるかもしれない。
今後については、推し活の「オンライン化」へのキャッチアップを強化していくと長谷川氏は話す。例えば「フラゲ」はその一つだ。一定期間中に予約した対象商品の受取先をセブン-イレブンにすると、発売日前日の午前7時に商品をゲットできるサービスで、送料手数料は無料。「いち早くゲットしたい」「ゲットしたことをみんなに自慢したい」というファン心理を突いたサービスといえる。
10月には、法人だけでなく個人も商品を販売できるサービス「タワーレコード マーケットプレイス」も開始した。CDやレコードにDVD、さらに推し活グッズなどの流通を活発化させる狙いだ。
「社会のトレンドはどんどんと変化していきますが、音楽やアーティストへの『好き』という気持ちは普遍的なものです。オンラインサービスと店舗、それぞれの強みを伸ばし、かつ融合させることで、お客さまの推し活を今後も応援していきたいと考えています」(長谷川氏)
タワレコが企業メッセージとして「NO MUSIC, NO LIFE.」を掲げたのが1996年。当時は1カ月限定の取り組みとしていたが、その後日本国内のタワレコだけでなく、米国の本社や世界各国のタワレコでも採用され、30年近くたった今も代名詞であり続けている。
同社の公式Webサイトによると「NO MUSIC, NO LIFE.」のプロジェクトを始めたもともとの目的は「音楽そのものを応援すること」。そう考えると、音楽の楽しみ方が多様化する今、タワレコが“推し活推し”へシフトしたのは大いに納得できる。ユニークなグッズとともに、今後もどのような形で音楽業界を盛り上げていくのか、注目だ。
フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
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