ここまで、日本におけるデカコーンの有力候補としてマネーフォワードとフリーに注目し、その歩みを見てきた。今回は、両社のIR戦略について考察する。
マネーフォワードとフリーは、上場後も海外機関投資家から400億円以上を資金調達し、赤字を継続しながらも事業成長を実現させた。2021年末頃から、機関投資家が成長率に加えて利益も重視する急激な変化が起きた。この変化に対応し、将来の成長性と収益性を株主に示し信頼を獲得できたマネーフォワードは、2023年8月に120億円の資金調達を実現し、フィンテック領域での事業をさらに加速した。
コロナ禍で世界が激変する中で、両社は機関投資家とどう向き合ったのか。
移り変わる株式市場の動向にあわせて、投資家の考え方は変化する。そのため、投資家と対話を継続し、投資家が何を重視しているかを把握し続ける必要がある。
コロナ禍において、景気を刺激するために米国FRBが2020年3月から行った量的緩和とゼロ金利政策により、資金量が増えた。しかし、コロナ収束が見えたことで、米国の金融政策が2021年11月頃から段階的に解除された。株式市場はこの変化に強く反応。ハイテクやインターネット関連株が多く上場するNASDAQの総合指数(下図緑破線)は、2021年冬頃にピークを迎え、2022年にかけて大きく下落した。
2021年8月ごろ、マネーフォワードとフリーの株式時価総額(下図 折れ線グラフ)は5000億円近くつけていたが、2022年にかけて一気に株価が下落していく。この急落は、事業の不振によるものではなく、株式市場が両社のようなSaaS企業を評価する目線が変化したためだ。
2021年ごろは、赤字を気にせず、成長性の高い会社が評価されていた。潤沢なリスクマネーが市場に流入し株価が上昇したことで、未公開市場においても、資金効率を気にせずに成長を求め、実現する企業が高い評価を受けた。
2022年には、成長性一辺倒から、収益性も重視される時代にシフトした。こうした変化を捉えるためには、マクロ環境変化に左右される株式市場を深く理解する機関投資家と、定期的に対話することが経営者に求められる。
経営者は機関投資家との約束を守り信頼を獲得する必要がある。その際、上場前後で機関投資家のタイプと振る舞いが変わることに留意し、上場後はできることのみ約束することが重要だ。
上場前は、ベンチャー・キャピタルが主要な機関投資家であり、事業計画のリスクを踏まえて投資を行う。事業計画通りに数字が出ない場合でも、主要な顧客の獲得や収益性の改善など事業に進捗(しんちょく)があると、継続支援が期待できる。加えて、未公開株は流動性が低く1度保有すると容易に売却ができないため、長期にわたり保有される傾向にある。
上場後は、機関投資家は経営者の言葉を約束として捉える。事業計画未達の場合、債務不履行に近いインパクトをもって機関投資家に捉えられる。未公開株と違い上場市場での売却も可能だ。海外の機関投資家は、1年単位で評価を受け成果を出していくことが求められているため、事業計画を守らず株価が下がる恐れのある会社に投資して、ファンドのパフォーマンスが落ちることは避けようとする。事業計画未達の場合、投資家は持ち株を売却し去っていく可能性が高いのだ。逆に約束を守り続け、投資家の信頼感を高めると、継続保有や買い増しの対象にもなる。
上場後は、約束を破ったと言われないように、機関投資家に対して丁寧な説明が求められている。
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