フリーは、未公開時から海外機関投資家を招き入れ、IPOを成功させ、株式時価総額5000億円を超えた。2012年設立間もないころから、米国VCファンドからの資金調達を実施し、IPO時には海外機関投資家の持ち分比率が30%超になっていた。
IPO時には既存の海外機関投資家たちの力も借りて、グローバルオファリングを実施した。海外SMB向けSaaS企業とセールス効率性の比較を行い、「R&D(開発)」「S&M(営業・マーケティング)」「G&A(本社費用)」などと開示する費用項目を海外企業とそろえるなど、海外機関投資家の理解獲得に努めた。この際、既存株主の理解を獲得し米国ファンドのティー・ロウ・プライスがインディケーション・オブ・インタレスト(IoI)を示したことが、新規株主を集める手助けとなった。
上場後も、CFOとIRチームが主体となって各事業部から情報収集し、CEOらトップマネジメントとメッセージを調整し、発信したり機関投資家と面談したりしている。その際、投資家に過剰な期待を抱かせないよう注意もしている。2021年2月以降の決算説明会では、英語でのグループコールを実施し、トランスクリプト(議事録)を英語でも速やかに開示した。
一方でフリーは、バックオフィスSaaS事業で成長可能性が高い中堅企業セグメントでマネーフォワードに対する出遅れを巻き返すべく、積極投資策を2022年8月に発表。その頃から、投資家の期待との間にズレが生じはじめた。黒字化を2027年度以降としたことで会計上の減損ルールに従い、関係会社ののれんや、ソフトウェア資産の減損処理で約92億円の特損を2022年6月期決算で計上。当期純利益は、100億円超の赤字(前期21年度27億円減)となり、発表のタイミングとしては良くなかったとも考えられる。翌年度は、先行投資をしたもののARR成長率の鈍化は止まらず、売上高営業利益率は大幅に悪化し、マイナス41%となった(前年マイナス24%)。
赤字を拡大しながら中長期的な成長を目指さざるを得ないフリーの姿勢は、資本市場の流れと逆行しており、機関投資家から評価されづらかった。2022年9月27日には、上場来の最安値をつけた。その後、ARRは継続成長しているものの、株価の反応は薄く戻りも弱い。
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