ここまで、日本におけるデカコーンの有力候補としてマネーフォワードとフリーに注目し、その歩みを見てきた。今回は、両社がそれぞれ協業を通じてどのようにエコシステムを構築したかについて考察する。
現状、マネーフォワードが士業事務所をエコシステムに迎え入れることに成功し、フリーが追いかける形となっている。ITに詳しい先進的なユーザーのみならず、一般的なIT理解のユーザーに対しても価値を提供しきるためには、エコシステムが不可欠であり、丁寧な構築が求められる。
ERP(※1)パッケージが真価を発揮するには、経営、ERPユーザー、システム、ソフトウェアのそれぞれで、幅広い専門的な知見やプロジェクトマネジメント能力が求められる。導入の目的を考える経営レベルの方針策定から、使いやすい操作画面のデザイン、不足している機能の開発、導入後のユーザーサポートまで、多岐にわたる業務が必要となる。
このため、社内外の幅広いステークホルダーに対する深い理解と、彼らとの協業が欠かせない。導入企業では経営者から中間管理職、営業事務を含める担当者レベルまで幅広い関係者が登場する。導入企業とERPベンダーのみではERP導入に関わる全ての知見を補えない場合は、さらにコンサルタント、SIer、会計・税理士事務所、社労士、ソフトウェア商社など、さまざまな関係者と協力することになる。
ERP導入の成功には、さまざまなプレーヤーが連携し、顧客の成功を目指したエコシステム構築が不可欠なのだ。
(※1)Enterprise Resource Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)の略で、システムの文脈で用いる際には、企業内の多様な業務の情報をつなぎ、管理、分析するためのソフトウェアシステム
DX白書では、中堅企業がDX推進する際の障害として、IT人材不足と導入におけるカルチャーが挙げられている。世界的なリサーチ&アドバイザリ企業の米Gartnerは、日本をクラウド抵抗国として位置付け、米国の普及から7年遅れていると述べている(※2)。
(※2)米Gartnerの調査より
顧客企業自身がERP導入の全体感を押さえながら、自社にとって必要な機能を要件定義することは難しい。そもそも中堅企業では社長は経理に詳しくなく、IT分野における人材不足もありITの専門部署がないことが多い。ベンダーに対してERPの提案を依頼する際にも「要求を正式な文章で示さない」「社内の要望が整理されていない」「何のためにERPを導入するのか曖昧」という課題がある。
顧客企業内にリーダーシップをとれる担当者がいたとしても、社内実態の詳しい理解が必要だ。社内の特定メンバーしか知らない業務フローやシステム、紙のメモや表計算ソフトなどが存在し、それが当たり前になっている会社が多い。こうした属人的な業務を担当しているメンバーからERP導入への協力を得られないと、スムーズな導入に支障が出てしまう。
外部から支援を仰ぐとしても、多くの顧客企業にとってコンサルタント確保は容易ではない。日本国内における、IT人材の量や質の不足感は強い。最大手のSAPジャパンですら、自社のシステムを扱えるコンサルタントが不足しており、千人単位で増やすべく教育プログラムを強化すると述べている。
コンサルタント、SIer、会計事務所、社労士などでERP導入をシステム面のみならず、社内外の理解を得て進められる人材は、現代日本にとって希少な存在だ。彼らの協業を得ることがERPベンダーにとって重要課題になる。
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