AIが医師の診断を上回るケースも 今後、生成AIは日常生活にどう影響するのか教育現場への影響も考察

» 2025年01月05日 08時00分 公開
[今井翔太ITmedia]

この記事は、『生成AIで世界はこう変わる』(今井翔太著、SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 利益を生み出すことを目的としない日常生活の一部にも、近いうちに生成AIが浸透することが予想されます。ここからは、一般的な家庭生活、教育、医療などの日々の暮らしに関わる分野における生成AIの可能性を探ります。

(写真はイメージ、iStockより)

生成AIで、専門知識を持つアドバイザーを「無料」で利用できるように

 現時点では、生成AIのインターフェースの問題や技術に疎い一般ユーザーを想定していない仕様から、一般的な家庭生活レベルでは生成AIの利用が普及しているとは言いがたい状況です。

 ただ、普及の状況はともかくとして、言語生成AIそのものや、それを補強するツールに関してはすでに家庭生活をサポートするのに十分な性能に達しています。ここでは、現時点の生成AIでも十分に実用的な活用法をいくつか挙げておきます。

 ChatGPTのような言語生成AIは、膨大な知識を持っており、食や栄養学、健康など日常的に必要な情報も例外ではありません。健康や栄養のバランスを考えた食の提案、生活習慣の見直し、トレーニングメニューの策定などといった活用法が考えられます。

 また、検索のような一方通行的な記述ではなく、適宜こちらの質問や方針の変更などを踏まえた柔軟なアドバイスが可能です。これらは従来、金銭的に余裕がある人物が専属のエキスパートを雇うなどして利用していたものです。生成AIにより、このようなエキスパートと同等レベルの知識を持つアドバイザーを、誰でも個人的に利用できるようになります。

 旅行や外食、ゲームなど、趣味や娯楽目的で行っていることであっても、必要な情報を調べたり計画を立てたりするのは意外と時間がかかるものです。ChatGPTには、すでにChatGPTプラグインという形で、趣味の補助を目的とする多くの追加機能が公開されています。Expediaや食べログなどのプラグインを利用すれば、個人の目的に合ったプランを提案してくれます。従来は大量の検索結果から必要な情報を発見したり、書籍を購入したりと手間がかかりましたが、これらの機能により対話的に必要な情報やプランを得ることができます。

 現在の生成AIは、さすがに個人の生活レベルでの細かい知識までは持っていませんが、長期的には個人のデータを使った学習、プロンプトの設計をするなどして、よりパーソナライズされた、より高性能なアプリが開発されると思われます。

【教育】生成AIは教師や教材の代わりになるか

 教育への生成AI導入は、まさに現在進行系で議論が続いているところです。日本では文部科学省、各大学が教育目的の生成AI利用について、それぞれ声明や資料を公開しています。

 教育に生成AIを利用することの是非、使用した場合の問題点については、議論が続くなかでいくつかの点では基本的な方針が定まってきているように思います。最終的な方針に関しては、学習効果を考慮して国が決めるものですので、その議論に踏み込むことは避け、ここでは生成AIの研究者・ユーザーとしての視点から教育目的に役立つようなユースケースを述べるにとどめます。

 教育において有効利用すべき生成AIの特徴としては、次のものが考えられます。

  • 材料を与えれば、高速に大量の有益な教材を学生の手で生成できる
  • 自分とは異なる視点を発見できる
  • 一切の遠慮がいらない、気軽にやりとりできる補助的な教師として使える

 現在の生成AIは事実とは異なる出力をすること(ハルシネーション)が多くあり、教育目的であっても何か特定の事実に基づく知識(歴史上の出来事、調査に基づく統計値など)を出力させるのは避けるべきでしょう。教材を生成する使い方としては、事実が問題にならないケースや知識などの材料をあらかじめユーザーが入力し、生成AIはそれを加工するだけといった場合が考えられます。

 例えば、特定の英単語を覚えたいときに、その英単語を含む短い例文を生成してもらう、暗記のための語呂合わせを生成してもらう、練習問題を生成してもらう、といった使い方です。教師側が教材のたたき台として、全体的な構成を検討・生成してもらうといった使い方も考えられます。

 また、生成AIはさまざまな人間が書いた膨大な文書データから学習しており、1つの話題に対して、複数の視点から出力を行うことが可能です。この特徴を生かすことで、生徒、教師のバイアスや知識の限界を超えて、新たな発見の機会を提供してくれるでしょう。

 最後に、これは教育に限った話ではありませんが、生成AIは一切の遠慮・配慮がいらないため、個人的な教師や相談相手として使うことができます。こちらがなかなか理解できずに何度質問しても怒られることがなく、相手の時間を気にすることもなく、こちら側の都合の良い時間に、自由な質問を、何度でも聞けるというのは大きな利点です。

【医療】AIが医師の診断を上回るケースも

 現時点で、最先端の言語生成AIは、日本やアメリカの医師国家試験に合格するレベルの性能に達しています。AIが持つ医療知識だけを問えば、人間の医師と近いものを持っていると言っていいでしょう。特に医療に特化した言語生成AIは、事実上、人類が蓄積してきたほとんどの医学知識を持っています。

 医師の業務には、診察や手術のように患者を直接相手にする仕事のほか、診察記録、電子カルテなどの書類作成に関する仕事が多く存在します。医療知識を持った生成AIは、簡単な指示のみでこれらの文書を作成できます。あるいは、既存の医学文書やデータから必要な情報を高速に検索、要約する用途も考えられます。これらの仕事をある程度自動化できれば、より本質的な診療に集中できるようになるでしょう。

 医師と同レベルの診断ができるAIも、生成AIの技術発展により現実的になってきています。これが実現すれば、時間や場所に縛られない診療が可能になるかもしれません。また、従来は医師の知識や経験がボトルネックとなり、見逃されていた病気の早期発見につながる可能性もあります。

 図3-10は、Googleが開発した医療特化の言語生成AI「Med-PaLM2」に対して、医療に関する質問への回答がどれだけ優れていたか、人間の医師が評価したものです。評価項目は「回答が医療や学術的な合意が得られた内容であるか」「回答に害がある内容を含んでいないか」といった軸で構成されており、各項目についてこのAIの旧版や人間の医師の回答と比較しています。

図3-10 医療に関するAIと医者による回答に対して医者が行った評価(『生成AIで世界はこう変わる』より)

 結果を見ると、全体的にはまだ人間の医師のほうが優れている項目が多いものの、一部の項目ではすでにMed-PaLM2が上回っていることが分かります。

 また、図3-11は一般人の視点で、Med-PaLM2らの回答が「質問の意図にどれだけよく答えているか」「回答がどれくらい役に立ったか」を評価したものです。これについては、どちらの項目もMed-PaLM2が人間の医師を上回る評価となっています。

図3-11 医療に関するAIと医者による回答に対して一般人が行った評価

 少なくとも患者の視点では、現時点で最先端の医療特化の言語生成AIはすでに人間の医師と遜色ない回答ができるレベルに達しています。ただし、医療は患者の命に直接関わる分野であり、導入には慎重になる必要があります。研究上は高い性能を示していても、その評価項目は限定的なものであり、安全性、信頼性、倫理、プライバシーなど、検討すべき項目はまだ多く存在します。

 医師の業務効率化はともかく、診断への応用については、最終的な判断は人間の医師が行い、このような生成AIの出力は患者や医師の意思決定支援に使うという状況がしばらく続くと考えられます。

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