この提案は強引に聞こえるかもしれないが、そもそも中国も米国製のアプリを制限している。中国では、SNSのXやFacebook、Instagramなどが政府により禁止され、使うことができない。WhatsAppやFacebookのMessenger、LINE、Telegram、Signalも使えない。GmailやYouTubeなどGoogle系サービスも禁止されている。
そんな中で、米国が安全保障の問題でTikTokを禁止することに、中国は何ら口を出すことはできない。50%の所有権を手放すことで米国で引き続きビジネスができるのなら、トランプ大統領に感謝すべきところだろう。
ちなみにトランプ大統領が、TikTokの全面禁止を支持しない理由は別にある。それは、ゴリゴリの共和党支持者でトランプ支持者でもある大富豪のジェフ・ヤス氏の存在だ。ヤス氏はバイトダンスの株式の15%を保有する米企業の共同設立者で、トランプ大統領にTikTokを禁止にしないよう働きかけたとみられている。
トランプ大統領が前政権から変節した理由の一つがこれだという。
これには、前駐日大使だったラーム・エマニュエル氏が米CNNに出演して、以前は危険だと言っていたTikTokに対してポジションを変えるのはいかがなものかと苦言を呈している。「中国は米国人を狙っている。どうして米国の子どもたちのデータが中国の影響にさらされ、データが収集されるのを許すのか」とも述べている。「トランプは米国の安全保障よりも大口寄付者を優先している!」ということだろう。
一方、今回の問題について、トランプ大統領が大人の対応で海外企業を救ったとなれば、今後の米国への投資にプラスに働く可能性がある。さらにトランプ大統領が今後、習近平国家主席とさまざまな交渉をしていくなかで、この救済措置をカードとして使っても不思議ではない。
とにかく、TikTokは今後も米国で中国色を薄めてサービスが続けられる可能性が高い。ただそれでも、データの安全性や中国の影響など、TikTokに対する懸念は解消されないだろう。また、米国国内の政治や米中関係の外交のカードとして使われるだろう。今後の動きから目が離せない。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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