ドンキ「みんなの75点より、誰かの120点」が、マーケティング戦略的に正しいワケ(3/4 ページ)

» 2025年01月31日 06時00分 公開
[金森努ITmedia]

ニッチ戦略の代表例:マツダの「2%戦略」

 こうしたドンキの「偏愛めし」的なアプローチは、ニッチ戦略としては非常に理にかなっている。同様の発想を体現した好例として知られるのが、マツダの「2%戦略」である。

 2012年に登場した「CX-5」を皮切りとする新世代商品群や、魂動デザイン、販売店の刷新によって、マツダはかつての「マツダ地獄」と揶揄(やゆ)された不人気のイメージから脱却し、ブランドイメージと支持率を大きく向上させた。

マツダ「CX-5」(出所:公式Webサイト)

 当時のマツダは世界シェア2%の自動車メーカーであった。その数字を見たとき、多くの企業であればシェアの拡大を目指し、より大衆受けする車を開発する方針にシフトするかもしれない。しかしマツダは逆を行き、「2%のユーザーに徹底的に愛されるブランドにしよう」と発想を転換したのである。

 大手メーカーと同じ土俵で戦うのではなく、むしろマツダ独自の世界観や車作りを強化し、“濃いファン”を狙う戦略にかじを切った。その結果、デザインや走行性能はもちろん、ディーラーの接客や店づくりまで含めてマツダ独自の色合いが際立ち、現在のブランド価値向上につながっている。

ヴィレッジヴァンガードに見る“アンチを恐れない”姿勢

 ニッチ戦略のもう一つの代表例として挙げられるのが「ヴィレッジヴァンガード」である。同社は書店でありながら、本やCDだけでなく雑貨をゴチャ混ぜに陳列し、独特のポップとディスプレイで“宝探し感”を演出する「遊べる本屋」として一世を風靡(ふうび)した。

 コロナ禍以降の業績は苦戦しているが、かつて同社の役員が「95%の人に嫌われても、5%の人に気に入られればいい」と語ったという逸話は有名だ。

 あるテナントビルから提供されたデータでは、来館客のうち5%しか同店に入らなかったという。ほとんどの人が素通りする中、それでも5%は“ここでしか味わえない楽しさ”を求めてわざわざ足を運んでくれる顧客であった。

 そこで、95%の大衆に合わせるのではなく、5%にとことん刺さる品ぞろえや店づくりを推進したのである。“アンチを恐れない”どころか、むしろ「嫌いな人に無理に振り向いてもらう必要はない」という哲学が徹底されている。大手の大型書店や雑貨店と真正面から戦うのではなく、既存のファンの深層心理を掘り起こして“そうそう、これが欲しかったんだ”と思わせる独自路線を究めることで、確固たるブランドらしさを築いた。

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