ここで改めてブランディングについて考えてみよう。ブランディングとは、「誰もが/誰でも使えるものにしない」と言い換えることができる。ブランドとは言い換えれば希少価値のことであるが、その価値を維持するためには商品の価格を高くしたり、ある程度顧客層を絞ったりする必要がある。その意味でスタバは、かなり「顧客の選択」に成功しているのだ。
例えば価格。スタバでは基本的に安売りをしない。フラペチーノは1杯1000円近く、カフェとして考えれば決して安いわけではない。しかしそれによって、その価格設定に耐えうる人、あるいはその価格でも行きたい人を静かに選択することになる。
もう1つの選択は、たびたびネタにもされる「スターバックス用語」だ。コーヒーのサイズはショート、トール、グランデ、ベンティと英語とイタリア語のミックス。トッピングが必要になると、そこにさらに複雑な片仮名が加わり、延々と続く「呪文」が誕生する。面白いのはこうした独特な用語によって、それを言える人のみが集まってくる。つまり、来店ハードルを上げているのだ。
米国のスターバックスについて分析し、『お望みなのは、コーヒーですか?』(岩波書店)を書いたブライアン・サイモンはこう語っている。
『スターバックス用語は特定の人々を店から遠ざける役割を果たしている。(中略)顧客はあらかじめスターバックスに通う誰かから、そうした言葉の使い方を学んでおかなければならない。その誰かとは、もともと高級で白人が多勢を占める場所を選んで出店していたスターバックスと縁が深いような知り合いなのだ。』
本場の米国でさえこうなのだ。であれば、英語もイタリア語もなじみのない日本人にとって、メニューの複雑さでスタバを遠ざける人がいるのは確かだろう。随所に「来る人を選ぶ」仕掛けがしてあることが、スタバの秀逸さなのである。
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