なぜパタゴニアは、古着を「新品よりもずっといい」とアピールするのか 背景にある哲学に迫る(4/4 ページ)

» 2025年02月25日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]
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配当だけで「1億ドル」 年商の1%を寄付

 過去には地球環境を守る資金を増やすため、創業家が持つ株式を全て、新設の目的信託(受益者が決まっていない信託。ある目的のために資産運用をする)と非営利団体に寄付するなど、話題を呼びました。2022年当時の時価総額は2230億ドル、日本円で3400億円ほどに相当します。パタゴニアは「地球が私たちの唯一の株主になった」として、事業への再投資にまわさない資金を毎年、配当金として上述した2つの組織に分配しており、配当だけで毎年1億ドルといえば、規模の大きさや本気度が伝わるでしょう。

 同社は2018年に、会社の目的を「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と再定義しています。こうしたミッションは、従業員に権限移譲をし、上司に一切判断を仰ぐことなく行動できるきっかけをもたらしているともいわれています。

パタゴニアの取り組みまとめ
パタゴニア 大阪・梅田ストアのWorn Wear常設コーナーの様子(筆者撮影)

 パタゴニアは、本格派の登山用具が買える店としてヘビーユーザーを引き付けているブランドです。人命に関わる道具であることが、常に最高の品質を目指すという考え方を生んでいます。それを衣料品にも適用させ、さらに環境と社会への責任を持つようにさまざまな活動を行ってきました。

 毎年、売上高の1%を環境保護団体に寄付する活動もその一環です。同社の売り上げは、2022年で15億ドルですから、年間で1500万ドル=約22億円を寄付していることになります。さらに、これだけでは足りないと同社では考えているからこそ、Worn Wearの取り組みも加速させているのでしょう。Worn Wearのオンラインストアでは、14万着以上の中古品を販売し、オンラインのリセール商品の売り上げは2017〜20年で500万ドル(約7億5000万円)ほどと、着実に成果を出しています。

 シュイナード氏は「パタゴニアが努力していけば、同社のように正しくビジネスをする会社がもっと増える」と考えていたようですが、実際には「グリーンウォッシング(見せかけの環境対応)」が多いことを嘆いています。これからのアパレル企業は、本気で社会課題の解決に取り組むべきです。それをパタゴニアは身をもって伝えています。

 今後、アパレル各社が新業態の開発や新サービスの導入を進めることで、リセール市場はさらに活性化するでしょう。結果的に衣服が循環することで、衣料品の廃棄量は削減されていくはずです。パタゴニアのような企業が世の中に増えてくることを期待します。

著者プロフィール

岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)

ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント

1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。直近では著書『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本[第5版]』を刊行した。

岩崎剛幸の変転自在の仕事術


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