窮地のフジテレビ、どうすれば良かったのか 分岐点は「初動」にあった(4/4 ページ)

» 2025年02月26日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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お手盛りの第三者委員会だけでは解決しない

 最後に「(4)事後検証調査の在り方」についても、少し触れておきます。今回の件については、初回の会見で港前社長が、日弁連ガイドラインに準拠しない独自の外部専門家による調査を行うと発言し、“お手盛り調査”ではないかと大批判を浴びました。結果的に、日弁連ガイドライン準拠での第三者委員会調査に委ねる方針に変更し、3月末を期限とした外部調査を行う段取りとなりました。

 しかし、第三者委員会については以前に『本当に「第三者」? 企業不祥事でよく見る「第三者委員会」に潜む問題点』でも取り上げた通り、世間一般に思われているほど信頼に足る完璧な調査ではありません。実際に、第三者委員会の報告書を定期的に評価している有識者団体「第三者委員会報告書格付け委員会」によれば、これまで28本の報告書が精査され、232評価票のうちA〜Fの5段階評価でのA評価はわずか2票。半数以上はDまたはF評価(不合格)なのです。

 その理由について、格付け委員会メンバーでガバナンスに詳しい八田進二青山学院大学名誉教授は、大半の第三者委員会においてメンバーが弁護士に偏っており、企業経営や当該業界に関する専門家の視点に欠けている点にある、と自著で述べています。フジテレビの第三者委員会も、発表メンバーを見る限り弁護士のみで構成されており、企業経営視点、業界視点に欠ける懸念があるといえるでしょう。

弁護士のみで構成される第三者委員会(出所:フジテレビジョンプレスリリ−ス)

 今回に似たケースとしては、東芝による不正会計事件の検証が思い出されます。東芝は当初、社内と一部外部専門家で組成した「特別調査委員会」を立ち上げるも、批判が相次いだことにより、法律家中心で組成した日弁連ガイドライン仕様の第三者委員会に移行しました。

 しかし企業経営や業界の専門家抜きの委員会では問題の本質を捉えきれず、水面下で進行していた米子会社の不祥事を見逃す失態を演じたのです。ちなみに、格付け委員会の評価では、全8人中3人がF(不合格)を付け、A〜B評価は皆無という結果でした。

 本来、社内の人間でなければ分からない諸事情や、業界特有の問題などについては、内部のコンプライアンス部門や監査部門等がしっかり調査し、別途報告すべきと考えます。今回のフジテレビだけの問題ではありませんが、第三者委員会が立ち上がったら検証は丸投げという姿勢では、再発防止など絵に描いた餅になりかねないということを付け加えておきます。

 フジテレビは2月6日付で「再生・改革プロジェクト本部」の設置を公表していますが、あくまで社内対策をメインとした今後の在り方に目を向けたプロジェクトに思えます。全く評価しないわけではありませんが、今優先すべきは信頼の回復です。具体的には独自検証に基づいた現時点での再発防止策の策定方針などを公表し、積極的な改善姿勢をもって第三者委員会報告を待つことかと思います。失われたコンプライアンス意識とガバナンス体制をいかにして構築していくべきか、その危機感と取り組み姿勢が見えない現状からは、同社の信頼回復はまだまだ遠いと感じさせられる次第です。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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