スポットワーカーの仲介業者は、飲食や宿泊など人手不足に悩むサービス業の救世主と評価される一方、闇バイト求人の掲載先になっている可能性もあるなどのマイナス面も囁(ささや)かれています。
仲介業者の最大手・タイミーを使ってスポットワーカーとして働いている人たちの年齢は、10〜20代だけでなく、30代以上の割合も多く、2023年12月時点で30代が17.7%、40代が17.5%、50代が11.7%、60代以上が3.0%となっています。また職業別では、学生が最も多く32.6%、次いで会社員が27.6%となっています。
そこでタイミーの例に、なぜビジネスパーソンがスポットワーカーとして働いているのか、また企業側がスポットワーカーを利用する際の注意点などについて社会保険労務士が解説します。
ビジネスパーソンがスキマバイトをする理由は明確。不足する給料を補うためが多いのではないでしょうか。
物価の高騰に対して企業側の賃上げが追い付いていない一方で、働き方改革以降、残業時間の抑制や有給休暇の取得推進などで労働時間は減り、自由時間は増えています。休みがあっても遊びに行くお金がないならアルバイトをしてお金を稼いだほうがよいと考える人もいるでしょう。生活費を補填(ほてん)したり、子供の教育費を捻出したりしなければならないといった切実な理由を抱える人もいるかもしれません。
自己啓発書やインフルエンサーの動画などでは「副業として時間を切り売りするアルバイトはおすすめしない。株式投資や動画編集、ライティングなど将来につながる仕事をしたほうがいい」という言説を見聞きします。
とはいえ、株式投資はある程度の元手が必要ですし、動画編集などのスキル系の副業は、経験が浅い人は報酬も抑えられがちで、時間当たりに換算すると最低賃金を割ってしまう人もいます。もちろん、経験を積めば高収入を得られるようになる可能性もありますが、当面の生活費を稼がなければならないので悠長に構えてられないという人もいるでしょう。
そのような人にとっては、終業後や休日にアルバイトをしたり、派遣会社に登録して働いたりしたほうが確実な手段なのです。
ただフルタイム勤務のビジネスパーソンが、アルバイトをしようとする際に直面するのが労働基準法で定められた残業時間の通算という考え方です。
労働基準法では、1日の労働時間は8時間まで週の労働時間は40時間までと定められており、それ以上労働者を働かせた場合、企業は残業代を払わなくてはいけません。兼業(副業)を行った場合、労働時間が通算されることになります。
例えば、A社で8時間働いている人が、就業後に飲食店Bで2時間アルバイトする場合、Bでのアルバイト時間は8時間を超えているため、残業扱いとなり割増賃金の対象となります。
割増賃金を払う義務は、原則として後から雇用した事業主(企業)に課せられます。したがってBの飲食店では通常の時給の1.25倍を乗じた時給を払わなくてはいけません。月曜日から金曜日まで正社員として40時間働いている人が休日にアルバイトする場合も同様です。こうしたルールがあるため、面接などで履歴書に他社にフルタイムで勤務していることが記載されているのを目にした経営者は採用を見送るケースもあるでしょう。
タイミーもこうした問題を踏まえ、週39時間以上働く人は登録できないようなルールを敷いています。また公式Webサイトでも労働時間の通算について注意を促す説明を掲載しています。
しかし登録する情報は自己申告制であり、求人企業との面談も行われないため、正しい情報を入力しているか疑わしい面もあります。(冒頭で述べたように)タイミーの利用者のうち会社員が27.3%を占めていますが、それらの人が全員週39時間以内の労働時間に収められているかは疑問が残ります。
配偶者の扶養の範囲内で働いている短時間労働者が利用しているのかもしれませんが、人手不足に悩む職場が多い昨今、労働時間を増やしてほしいという依頼も多いかと思われます。あえてタイミーなどを使って仕事を探さなければならない人は少ないでしょう。
スポットワーカーは、労働者派遣事業と異なり求人企業に雇用される労働者となりますが、意外にもこの事実を認識している企業は多くありません。繁忙期の事務作業にスポットワーカーを活用している零細企業の経営者に「労働時間の通算の確認はしているか」と尋ねたところ、「それは仲介業者さんのほうで対応しているのではないの?」という答えが返ってきました。
もちろん、派遣との違いについてもスポットワーカー仲介業者は怠りなく説明していると思われますが、スポットワーカーには仲介業者が代わりに賃金を払っているため、人を雇用しているという意識を持ちにくい面もあります。こうしたこともあり、スポットワーカー仲介サービスを利用する場合、労働時間の通算の問題は顕在化しなくなる傾向があります。
なお厚生労働省は副業・兼業の促進に向けて、労働時間通算制度の見直しを検討しています。2027年4月以降は、労働時間の通算は労働法の改正で廃止される可能性があります。その場合、労働時間の通算については企業側も労働者もに気にする必要はなくなります。
ただ労働時間の通算以外にもスポットワーカーを活用する企業が留意しなければならないことはいくつかあります。けがをした場合は労災の申請に対応する必要がありますし、スポットワーカーが起こした不祥事については、責任の大半を企業が担うことになります。
派遣の場合ですと、派遣社員が起こした個人情報の流出などの不祥事は、派遣会社に責任を分担させることができますが、スポットワーカーの場合は利用した企業の責任となります。
採用力が弱い企業にとって必要な日時を指定して労働力を提供してくれるだけでなく、給与の支払いや雇用契約書(労働条件通知書)の作成まで代行してくれるスポットワークサービスは、救世主ともいえるでしょう。
法律的な縛りが厳しくなった派遣よりも使い勝手がよいと感じるかもしれません。しかし働いてもらうのは1日の数時間とはいえ、自社が採用した社員(アルバイト)と変わらないという認識を持つ必要はあります。
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