日本の半導体産業の再興に向けた取り組みが本格化している。国際競争が激化する半導体技術の発展を支えるためには、国際的な視点と次世代を担う創造力を兼ね備えた「価値創造型人材」の育成が求められている。
全国の大学や研究機関は、産官学連携を通じて、教育・研究体制を進化させ、半導体産業を支える人材とイノベーションの創出に向けた新たな挑戦に乗り出している。果たして日本はグローバル競争の波にどう立ち向かうのか━━。
2024年12月13日、半導体の国際業界団体SEMIが主催する展示会「SEMICON Japan」の中で「半導体テクノロジーシンポジウム2024」が開催された。東京大学をはじめとする国内8大学の教授陣が、「産学共創で拓く未来―最先端研究と次世代人材育成」をテーマに産業界とアカデミアの連携強化の重要性について語った。
コメンテーターを務めた東北大学の大野英男総長特別顧問は、半導体の人材育成において「企業がグローバルで活躍するなか、大学もグローバルな視点を持ち、価値創造を前面に押し出す場へと変わる必要があります。その中で、整備されつつあるリソースのフル活用、価値創造に見合った対価、これらが両輪となって大きな人材育成の流れとなります」と指摘する。
今回のパネルディスカッションの議論を基に、日本の半導体再興への道のりを探る。
左から東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター センター長・教授の戸津健太郎氏、東北大学 総長特別顧問、経済産業省 特別顧問(科学技術担当)大野英男氏、北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター教授の葛西誠也氏、東京大学 大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター センター長・教授の池田誠氏、東京科学大学 総合研究院 集積Green-niX+研究ユニット 教授の若林整氏、名古屋大学 大学院工学研究科 電子工学専攻 教授の須田淳氏、広島大学 半導体産業技術研究所所長・教授の寺本章伸氏、九州工業大学 マイクロ化総合技術センター センター長・教授の中村和之氏、熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構 半導体部門長・教授の飯田全広氏日本の半導体産業の復活に向けた取り組みが、全国の大学を中心に進んでいる。各大学が持つ専門性や地域の特性を生かし、産官学連携を通じて人材育成と研究の強化に取り組む姿勢が明確になった。まずは、パネルディスカッションに参加した8大学の主な取り組みに焦点を当てる。
地域産業の発展に向けた取り組みを進めている北海道大学は2024年6月、半導体メーカーのRapidus(ラピダス)と半導体産業を通じた日本の科学技術力の向上や人材育成を目的とした包括連携協定を締結した。この協定により、研究開発や人材育成が推進されるだけでなく、北海道全体での産業集積が進む可能性が広がっている。
「ラピダスの立ち上げをきっかけに、北海道内の大学や高専と協力し、産業基盤を築くことが重要だと考えています。包括連携協定により、実務家レベルでもコミュニケーションが取れてきて、連携がより加速しています」(葛西誠也教授)
東京大学では、半導体設計教育に重点を置き、革新的なプログラムを展開している。過去には設計のノウハウが乏しかった現場に対し、基盤設計研究部門として、東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)を1996年に発足した。この活動を通じて、発足5年で年間400件の試作を支える活動に成長した。
「人材育成は非常に時間がかかることです。VDECの活動と同じことをやっていかないといけません。ワクワクすることは何だろうなと考えた時に、みなさんで設計ができることだと思っています。そのあたりも含めて人材育成に取り組んでいきます」(池田誠センター長)
文部科学省の「次世代X-nics(エックスニクス)半導体創生拠点形成事業」は、省エネで高性能な半導体の創生に向けた研究開発と半導体産業をけん引する人材の育成を目的とした事業だ。その一つの拠点として採択された「集積Green-niX(グリーンニクス)研究・人材育成拠点」は、東京科学大学、豊橋技術科学大学、広島大学の3大学が中心となって立ち上げられた。
「環境負荷の少ないLSI(集積回路)の開発や(シリコンに代わる新たな2次元半導体材料として注目される)2D層状半導体、超低消費電力メモリ、(シリコンと炭素で構成される半導体材料である)SiCを用いたデバイスなどの研究をしています。『キープ・ニュートラル』(特定ではなく複数の企業との関係性を維持する)を掲げながら、参加された企業間で最大限に情報を共有できるような取り組みを進めています。また、人材育成では、3大学間で(関連科目を履修し、修得した単位は)それぞれの大学の単位として認定される単位互換制度を導入しています」(若林整教授)
名古屋大学では、長期インターンシップによる研究開発の参加やテックベンチャーの起業を課題とするイノベーション教育を展開している。また、市民向けの啓蒙活動や学生に幅広い知識を得てもらうため半導体関連企業によるレクチャーの開催にも積極的に取り組む。
「博士課程の学生にフレキシブルな考え方も習得してもらうために、企業での長期インターンシップを通じて、研究開発に参加させていただいています。また、学生にチームを作って、テックベンチャーを起業するという課題も与えています。企業のメンター(指導者)の方を中心に指導していただいて、アイデアコンテストで入賞して、複数のスタートアップも誕生しています」(須田淳教授)
文部科学省による人材育成支援事業である「高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援(ハイレベル枠)」に広島大学を含む国内7大学が選定されている。同大学では、半導体専門の学位プログラムを有する米パデュー大学や国際的な企業と連携して、独自の半導体人材育成プログラムを創設する。さらに、広島県や民間企業とともに設立した「せとうち半導体コンソーシアム」で産官学連携を強化している。
「2024年4月に研究所の組織を改組し『半導体産業技術研究所』という名称にして、半導体に関する材料から製品開発までを一気通貫して、戦略を考えながら、研究を進めています。『せとうち半導体コンソーシアム』は13社で発足し、いまや27社、29団体となりまして、延べ人数で2000人以上の方々が講義などに参加しています」(寺本章伸所長)
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