赤いきつねCMから考える 企業SNSは「誹謗中傷」にどう対応すべきか弁護士が詳しく解説(1/2 ページ)

» 2025年02月26日 14時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]

 東洋水産の「赤いきつねうどん」(以下、赤いきつね)のアニメCMを巡り、ネット上の一部から批判の声が上がっています。

 批判をしている投稿の中には、誹謗中傷ととれるものもあります。企画を担当したチョコレイト(東京都渋谷区)は2月25日、個人の投稿に対し、「一部誹謗中傷にあたる行為がある」と注意喚起のコメントを発表しました。

 今回のように企業アカウントに対して誹謗中傷するアカウントに、企業側はどのような対応ができるのでしょうか? コンプライアンス問題に詳しい佐藤みのり弁護士が、企業アカウントへの誹謗中傷について詳しく解説します。

どこまでが「意見」で、どこからが「誹謗中傷」か

誹謗中傷 法的責任は?

 誹謗中傷とは、一般に、悪口や根拠のないうそなどを言い、他人を傷つける行為です。SNSなどで誹謗中傷すると、刑事上、民事上の法的責任を問われる可能性があります。

 刑事責任としては、誹謗中傷の内容によって、名誉毀損(きそん)罪(刑法230条、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)や侮辱罪(刑法231条、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)に問われる可能性があります。民事責任としては、損害賠償請求を受け、慰謝料の支払いなどが命じられる可能性があります。

 「開示請求」は、こうした法的責任を追及する前提として行われるものです。SNSの誹謗中傷は匿名のアカウントによるものが多く、責任を問うためには、誹謗中傷してきた相手を特定する必要があります。そこで、プロバイダーに対し発信者情報の開示を求めることになります。

 発信者情報開示請求が認められるためには、権利が侵害されたことが明白である必要があります。名誉毀損の場合、具体的には、問題となるSNSの投稿により社会的評価が下がったこと、問題となるSNSの投稿には公益性や公益目的がなく、虚偽ないし根拠に基づかない内容であることを示す必要があります。

 この他、誹謗中傷を受けた場合、プラットフォーム事業者に対して削除請求することも可能です。2024年5月10日、「プロバイダー責任制限法」を改正する法律が成立し、「情報流通プラットフォーム対処法」という新たな名称で今春に施行される予定です。この法律により、大規模プラットフォーム事業者は、自社のサービスではどのような投稿が削除されるのかなどを示した基準を策定し、事前に公表すべき義務が課されます。

 従って、企業が誹謗中傷投稿の削除を求めたい場合、各プラットフォーム事業者が公表している削除基準を参考に、削除され得る誹謗中傷にあたるか、事前に検討するとよいでしょう。

 一口に「誹謗中傷」といっても、前述したように、さまざまな法的責任が発生します。刑事責任が認められるか、民事上の賠償責任が認められるか、発信者情報が開示されるか、削除が認められるか――は、全て同じ基準で判断されるわけではないことに注意が必要です。

 それを前提に、一般に「誹謗中傷にあたる」と判断されやすいケースとしては、例えば以下などが考えられます。

  • 臆測などに基づき虚偽の事実を真実であるかのように広め、相手の社会的評価を下げる表現
  • 「バカ・無能」「ブス」といった人を侮辱する表現などが、社会通念上許容される限度を超えてなされた場合

赤いきつねCMに対する投稿の一部は、誹謗中傷にあたるか

 今回のCMについても、いろいろな感想を抱く人がおり、マイナスの意見も含め、表現することは原則自由です。その自由を超え、特定のクリエイターや声優などの人格を否定したり、侮辱したりすると違法になる可能性があると考えられます。

 表現の自由のもと、批判や否定的なコメントであっても自由にできるのが原則です。今回の赤いきつねのCMについても、ネット上の限られた人から批判的な意見が出たということですが、表現方法などを間違えない限り、意見すること自体に問題はないでしょう。

 しかし、ごく一部の批判から、いわゆる「炎上」という状況が生まれる中で、不快やいら立ちといった負の感情のままに表現することには、大きな危険を感じます。感情の赴くままに表現すると過激になりがちであり、「作品に対する意見」から「作品作りに関わった人への攻撃」「自分とは異なる意見の者に対する攻撃」に変わっていきます。相手をさげむような表現は、社会通念上許されないとして、法的にも違法と評価されるでしょう。

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