KDDIが経理のオペレーション改革にAIを活用し、得た成果とは。従来の業務プロセスから脱却を図る中で直面した課題、失敗と成功、今後の展望を語る。
2018年、経済産業省は「DXレポート」内で「2025年の崖」というフレーズを使用した。日本企業が市場で勝ち抜くためにはDX推進が必要不可欠である。経済産業省は、もしDX推進を進めずに企業の競争力が低下した場合、2025年から年間で約12兆円もの経済損失が発生すると予測している。
「2025年の崖」に直面しているにもかかわらず、まだ対応できていない企業が多いのが現状だ。ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)の調査によると、約9割の企業がいまだに大規模システムの導入を経営計画に組み込めていないことが明らかになった。
なぜ多くの日本企業は、経済損失12億円の危機に直面しているにもかかわらず、DXを進めていけないのか。背景には、ITを知らなすぎる経営者の責任があると、BCG オペレーショングループ 日本リーダーの北川寛樹氏は指摘する。
ERP(Enterprise Resources Planning、総合基幹業務システム)は、グローバルでは既に市場が成熟しており、市場規模は2020年から2025年で1.1%増とほぼ横ばいだった。
一方日本国内では、崖問題が言及されるようになった2019年から2025年までに市場規模は10.8%増。多くの企業が崖問題への対応を急いでいることが分かる。
しかし、工期・予算・品質で見ると、ERP導入に失敗している企業が多いことが見えてくる。プロジェクト規模500人超の大規模案件においては、予定した工期や予算を順守して完了した企業は2割を切る状況。さらに、「品質に満足」とした割合は11.0%と、成功とは言いがたい状況がうかがえる。
北川氏は、2025年の崖問題への対応が遅れている状況に対し、経営者の責任を指摘する。「ITを知らない経営者が多く、基幹システムの導入に関しても手を出したがらない」と状況を分析した。
実際、同社の調査によると中期経営計画で大規模システムの導入を記載している企業は12.0%にとどまった。残り88.0%の企業は、投資家や株主にまだ企業方針を説明できていないということになる。
「ITを理解しておらず、人任せにする経営者が多い。投資家から『本当に実現できるのか』『この投資は回収できるのか』と聞かれても、企業が答えられないケースが増えてきた。そのような状態では、ITやデジタルに投資をしても成功できないだろう。最小の投資で最適なものを作っていくためには、事業のポートフォリオを理解したうえで、ITに精通している経営者の存在が不可欠だ」(北川氏)
企業のIT部門は、システムの保守・運用で精いっぱいで、会社全体の事業を把握して投資計画を考えたり、ビジネス部門と連携したりすることが難しいケースも多い。また、IT部門の地位が低いため、取締役会でIT部門の取り組みが議論されない企業も。経営者がITを理解し、旗振り役になることは成功に欠かせない要素となる。
もう1つ、データマネジメントにおいてよくある失敗に、データ活用の目的を言語化できていないケースがある。データを活用した後に“何を見たいか”が決まっていないことが多いという。
同社の調査によると、日本企業の7割はデータマネジメントに充足できていないことが分かった。成功するためには、意図を明確に言語化するだけでなく、その大変さをマネジメント層に理解してもらうことが重要だという。
予算や人手が潤沢な大企業であれば、このような課題を乗り越え、2025年の崖問題に対応できるかもしれない。しかし、リソースが限られている中小企業では、各社が個別で対応するのが難しいのではないかと、北川氏は指摘する。
「中小企業の支援では、国が投資し、共通の仕組みを作っていくべきではないか」(北川氏)
例えば、美容室業界の検索・予約システムでは、リクルート社の「ホットペッパービューティー」が多くの企業、店舗で活用されている。美容室は各社独自の強みや特徴を持っているため、共通のシステムを活用していてもビジネスとして差別化ができている。このように、仕組みを共通化できたら、中小企業各社がリソースを割き、無理な投資をする必要がなくなる。
さらに、昨今は深刻なエンジニア不足が続いているが、国として共通の仕組みを提供できれば、必要なエンジニア数も大幅に減少するだろう。
2025年の崖問題は、日本市場の基盤を揺るがす深刻な問題である。一社でも成功企業を増やし、日本企業の競争力を高めていくためにも、産官が連携していくべきだろう。
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