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NVIDIAフアンCEO、自社イベントを「AIのスーパーボウル」と表現 何を語った?

» 2025年03月20日 05時00分 公開
[ロイター]

 米半導体大手NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏は3月18日、AI業界の変革において同社が優れた適応力を持っていると述べた。現在、多くの企業がAIモデルの「学習」(トレーニング)から、モデルを活用して詳細な回答を得る「推論」(インファレンス)の段階へと移行している。

 フアン氏は、米カリフォルニア州サンノゼで開催された同社の年次ソフトウェア開発者カンファレンスに登壇。高価なAI向け半導体を販売するNVIDIAの優位性を主張した。これは、中国企業のDeepSeekが、NVIDIA製AIチップの使用量を抑えたとされる競争力のあるチャットボットを開発したことで、同社のビジネスモデルに対する投資家の懸念が高まる中での発言だった。

NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏は、高価なAI向け半導体を販売する同社の優位性を主張した(以下ロイター)

止まらないAIの計算量増加 フアン氏「世界中の人々が誤解」

 しかし、フアン氏の発表は投資家を十分に安心させることはできなかった。NVIDIAの株価は3.4%下落し、半導体指数も1.6%下落した。

 フアン氏は「ほぼ世界中の人々が誤解していた」と語った。この日も黒のレザージャケットとジーンズというおなじみのスタイルで登壇。(米国最大のスポーツイベントに掛けて)同カンファレンスを「AIのスーパーボウル」だと表現した。

 「エージェント型AI(agentic AI)や推論の発展によって、必要な計算量は昨年の想定よりも100倍に増えている」と指摘した。エージェント型AIとは、人の介入をほとんど必要とせずに日常的なタスクを処理する自律型AIを指す。

 NVIDIAの収益の大部分を占める高性能チップは、市場の技術変化によるプレッシャーを受けている。これまでAI市場は、膨大なデータを用いた「学習」(トレーニング)を重視してきたが、現在は学習済みのAIモデルが実際にユーザーに回答を提供する「推論」(インファレンス)へとシフトしている。

 NVIDIAの成功は、カリフォルニア州サンタクララに本社を構える同社が、過去10年間にわたりAI研究者や開発者向けのソフトウェアツールを整備してきたことによる部分が大きい。しかし、2023年の売上高1305億ドル(約19.7兆円)の大半は、1台数万ドル(数百万円)で販売されるデータセンター向けのAIチップによるものである。

 NVIDIAの株価は、ChatGPTやClaudeなどの高度なAIシステムの成長を背景に、この3年間で4倍以上に上昇してきた。

 「投資家の視点では、今回の発表内容はすでに市場に織り込み済みだった」と、テクノロジー・コンサルティング企業Creative StrategiesのCEO、ベン・バジャリン氏は述べた。

 また、NVIDIAが長期的にAI業界の基盤を支えるチップを提供すると主張したとしても、短期的な投資家の期待には大きな影響を与えなかったと指摘。「NVIDIAのストーリー自体は基本的に変わっていない」と語った。

「エージェント型AIや推論の発展によって、必要な計算量は昨年の想定よりも100倍に増えている」と指摘

新チップの発表

 フアン氏は、新たなGPU(画像処理装置)である「Blackwell Ultra」を発表した。このチップは2025年後半に発売予定で、現在の主力製品「Blackwell」よりも大容量のメモリを搭載。より大規模なAIモデルをサポートできるという。

 また、NVIDIAのチップの主な目的として、「AIシステムが多数のユーザーに対して賢明な応答を提供すること」と「その応答を可能な限り高速に処理すること」の2点を挙げた。そして、「この両方を同時に実現できるのはNVIDIAのチップだけだ」と強調した。「もし質問への回答に時間がかかりすぎると、ユーザーは戻ってこない。これはWeb検索と同じだ」とフアン氏は述べた。

 さらに、2026年後半に発売予定の次世代チップ「Vera Rubin」の詳細も明らかにした。このチップはBlackwellの後継として、より高速な処理を実現するという。さらに、2028年には「Feynman」チップのリリースを予定していることも発表した。

 ただし、新たに市場投入されるBlackwellチップは、設計上の欠陥による製造トラブルの影響で、当初の予定よりも遅れて登場することとなった。2024年、AI業界全体がデータの拡張とAIチップの増設に限界を感じ始めたこともあり、NVIDIAのチップ市場は新たな課題に直面している。

 それでも、NVIDIAは2月、Blackwellチップの受注が「驚異的な水準」に達していると報告している。

新型ワークステーションとAI市場の展望

 フアン氏は、Blackwellチップを搭載した高性能な新型パーソナルコンピュータ「DGX Workstation」も発表した。Dell、Lenovo、HPなどのメーカーが製造を担当する予定であり、2025年初めに発表された小型デスクトップモデルの後継機となる。この新型ワークステーションは、AppleのハイエンドMacシリーズに対する競争力のある選択肢となる可能性がある。

 「これが本来のPCの姿だ」と語りながら、フアン氏はデバイスのマザーボードを手に取って見せた。

 また、AIの推論プロセスを加速する新しいソフトウェア「Dynamo」を無料で公開したことを明らかにした。加えて、自動車メーカーのGeneral Motors(GM)が、自社の自動運転車フリートの開発にNVIDIAを採用したことも発表した。

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