障害者雇用は他人事か? 法定雇用率よりも会社が気にすべきこと働き方の見取り図(3/3 ページ)

» 2025年03月25日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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最初から完璧を目指すと失敗する

 障害者雇用を他人事と捉えるのは、画一性重視の観点に立って標準との違いを排除しようとする証でもあると言えます。残念ながら、現状の法定雇用率の達成状況を見る限り、多様性よりも画一性重視の観点に立つ職場の方がまだ多そうです。

 政府は法定雇用率を少しずつ引き上げ、強制的に障害者雇用を増やす施策をとってきました。さらには、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種に対して定められていた除外率を廃止し、段階的に引き下げを行っています。2025年4月も、除外率が一律10%引き下げられます。しかしながら、いまのところ障害者への就業機会が十分に提供できているとは言えません。

 また、厚労省の資料によると令和6年3月から7月までの間に解雇された障害者は4884人に及びます。要因の多くは、就労継続支援A型事業所の事業運営の厳しさにあるとされています。障害者雇用と職場維持を両立させることは容易ではなく、障害者が仕事に就けたとしても解雇される不安が付きまとう現状があります。

 そんな現状に対し、民間企業ではNTTグループやトヨタ自動車など特例子会社を起ち上げて障害者雇用を増やそうと取り組んでいる事例などが見られます。その背景として法定雇用率を達成する目的もあるかもしれませんが、障害者の戦力化には画一性重視から多様性重視の職場環境へと転換させる取り組みの一環としての意義もあります。

 また、サテライトオフィスなどの働く場所を提供しながら、障害者の就労やキャリア開発を支援する障害者雇用促進事業を手がける民間事業者なども現れています。中には、応用行動分析や文脈的行動科学といった専門知見に基づいたサービスを提供する株式会社スタートラインのような事業者もいます。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 多くの職場ではまだ画一性重視から多様性重視へと移り変わる過渡期にあります。障害者雇用も、職場自体が進化していく過程の中で進めていくことになります。さらに、障害者の雇用をめぐっては、単に雇用の数を増やすのではなく、より満足度が高くやりがいを感じられる仕事に就けることやキャリア開発環境などを充実させていくといった課題があります。

 障害者雇用と職場維持の両立だけでも大変な中、あらゆる条件を全て満たす環境をそろえるのは至難の業です。懸念点にばかり目を向けてしまうと、働きたいと考える障害者の就業可能性が奪われることにもなりかねません。

 企業は働きたいと希望する障害者の就業機会を増やし、より多くの選択肢を提供すべきでしょう。それらの選択肢は完璧なものではなかったとしても、一つずつ改善のステップを進めることが目下の最重要課題だと感じます。そのために官民が力を合わせ、多様な人材が能力・特性を生かして働ける職場を創出すべく、知恵を寄せ合う必要があるのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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