米国で広がったとされる「静かな退職」(Quiet Quitting)という言葉を耳にする機会が、日本でも徐々に増えてきました。しかし、その受け止め方には賛否両論が見られます。
実際に辞めるわけではなく、必要最低限の仕事だけこなしてそれ以上は頑張らず、心の中で職場に対して距離を置く静かな退職。言葉としては新しい表現ではあるものの、仕事を人生の中心に据える価値観とは一線を画したスタンスを選択する働き手は、近年になって突然現れたわけではなくずっと以前からいました。
ただ、職場は基本的に仕事に対して前向きであることを求めます。後ろ向きな人がいると、職場の士気が下がったり雰囲気が悪化したりしかねません。
「24時間戦えますか」という強烈なキャッチコピーが流行語になった猛烈サラリーマン時代と対極に位置する静かな退職。そんなスタンスの働き手を、職場や同僚たちはどのように受け止めればよいのでしょうか。
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
静かな退職という言葉から受けとられるイメージは、大きく2つに分かれます。
1つは、ほとんど仕事をせずサボっているというスタンス。それなのに、もらうものはもらう給料ドロボーのような働き手には反感が生じることになりそうです。
もう1つは、自分のやるべきことしかせず、それ以上の仕事はしないという割り切ったスタンス。自分の仕事が終わったら、周囲の人に声をかけて「何か手伝えることはありませんか?」と積極的に仕事に取り組む姿勢が求められる職場では、そんな消極的なスタンスの働き手に対する反感が生じるかもしれません。
静かな退職が本来意味するところは後者の方ですが、仕事をしない給料ドロボーのような前者の意味合いで使われるケースもしばしば目にすることがあります。しかし、後者は必要最低限の仕事はこなしているだけに、給料ドロボーとは言えないはずです。また、仕事一辺倒にならないというスタンスは、いまの時代に即していると言えるかもしれません。
例えば、過労死の問題。長時間労働といった業務の過重な負荷や強い心理的負荷などが原因で働き手が亡くなるという痛ましい事態を避けるためには、仕事中心の生活に偏りすぎて健康を害さないよう注意することが必要です。
家事や育児、介護、趣味など、生活のために大切な時間とうまく調整しながら仕事するワークライフバランスを重視する傾向も強まっています。24時間戦う企業戦士を求めるハッスル・カルチャーへのアンチテーゼだと捉えると、静かな退職は過去に対する反省によってもたらされたスタンスと言えるかもしれません。
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