「そんなもん2カ月も寝かしていたことで、企業イメージは地に落ちたわけだから、ダメージを広げているはず」と思うだろう。おっしゃる通りだ。
しかし、経営陣の中には売り上げに大きく直結するような「不祥事」を「ひとつの期」の中にうまくおさめたいという考えの人もいるのだ。
もし1月にネズミ混入を公表していたら、2月と3月の客数や売り上げが落ち込んで、2024年10〜3月の期をまたいで次の期にまで影響が及んでいた恐れもある。これは経営者としては避けたいところだ。ひとつの不祥事について2期にわたって言及すると、投資家に対し、その影響があまりに長引いて、経営陣が問題に対処できていないのではという悪い印象を与えてしまう。
しかし、3月まで公表しなかったことで、2024年10〜3月の期への影響は限定的となり、本格的な悪影響が出るのは次の期からとなる。つまり、「既存店の売り上げが落ちたのは、2025年3月末に公表した異物混入の影響もある」という投資家への説明は、一度で済む。
しかも、タイミングよく他の企業不祥事や世間を揺るがすニュースが入ってくれば、今の消費者はすぐに「ネズミ味噌汁」など忘れてしまう。株価は瞬間的に大きく落ち込むが、既存店にそこまで影響がないと分かればもともと人気のある銘柄なので、リカバリーにそれほど苦しむこともない。
メディアや消費者はこのような不祥事が起きたとき、「なぜすぐに公表しない!」「消費者をバカにしているのか!」と怒りをあらわにする。だから当然、われわれのような危機管理のプロも「公表」を強く勧める。
しかし、現実は必ずしもそうならない。「公表したいのは山々ですが、わが社の事業戦略的にはこのタイミングは最悪で」とか「トップがどうせボコボコに叩かれるのならば、決算が終わった後にしろと強く申していて」などさまざまな「オトナの事情」が優先され結局、伏せられたり隠蔽(いんぺい)したりする。
そういう「組織の病」を間近で見てきた立場で言わせていただくと、メディアや評論家が唱える「なぜ牛丼チェーンのトップ企業が2カ月も公表が遅れたのか」について、驚きはほとんどない。
むしろ、そういう大きな組織だからこそ、2カ月も不祥事の公表が遅れてしまったのではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受
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