少子高齢化による労働人口の減少が進む中、日本企業では従業員一人一人の生産性向上が重要課題となっている。また、生成AIの進化など労働環境の激しい変化により、従業員個人においても従来のスキルだけでは活躍を続けることは難しい。
企業・従業員の双方にとって、学び(リスキリング)による新たなスキル獲得が急務となっている一方、中長期的な学びへの投資対効果(ROI)の検証や、個人学習と組織成果との関連を明らかにすることは非常に難しい。今、個人の学びや成長を組織の成果や発展に結び付ける仕組みづくりに注目が集まってきている。
そのような中、ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)は、村田製作所と「学びの費用対効果(ROI)」に関する共同調査を実施し、「従業員の学びと組織の成果」についての研究結果を発表した。このたび開催された記者説明会では、ベネッセのUdemy事業本部ラーニングデザイン部部長の内木場絵理氏、マーケティング統括部データ戦略推進責任者の大塚卓氏、ラーニングデザイン部研究責任者の佐藤徳紀氏が登壇し、その結果を紹介した。
大塚氏は、現在多くの企業が直面している人事の変化について説明した。
「現在、多くの企業ではDXをはじめとする経営戦略の変化に伴い、これまでと異なる人材が求められる傾向が強まっています。一方で、労働人口が減少する中、“戦略人事”として全員戦力化を目指した人材マネジメントが重視されています」(大塚氏)
こうした環境下で企業が持続的に成長するためには、「個人を変える」「組織を変える」という2つの軸での取り組みが不可欠だという。個々の学習を組織全体の成果につなげるステップを5つに分け、企業価値向上を実現するためには、段階的なアプローチが必要となることを説明した。
「企業が目指す状態には、(1)学習環境を整え、(2)学習する人を増やし、(3)業務につながる学びができるという、社員個人の学習による知識獲得の段階があります。さらに、(4)知識を仕事で活用する人が増加し、最終的に(5)組織全体の成果を得られると、個人学習が組織に変化をもたらした、つまり組織学習が成功したと言えるでしょう」(大塚氏)
大塚氏は、各ステップで必要な支援が異なることも強調した。まず「個人の学習」における学習成果に関わる3つの要素として、「学習目的」「きっかけ」「学習習慣」を挙げた。さらに、組織の取り組みとして「期待」「サポート」「活用機会」の3要素が重要であると説明した。
「業務で成果を得られるような自律学習を推進するためには、個人の主体的な学びと、それを支える企業の取り組みが大切です。個人が学び続ける意欲を持ち、学んだ知識を業務に生かす努力をすること。そして企業が学びを支援し、成果を共有し、活用する場を提供すること。これらが一体となることで、学びは個人の成長だけでなく、業務成果につながります」(大塚氏)
ベネッセでは、これらの要素が業種によってどのように異なるかを分析するため、5008人の会社員を対象に意識調査を実施。業種によって、学びにどのような違いがあるのかを明らかにした。
例えば、コンサル業界は全体的に学習意識の項目が平均よりも高く、特に「学習目的」「きっかけ」「活用機会」の項目で高い数値を示していた。一方、情報・通信業では「きっかけ」は高いものの「活用機会」や「学習目的」については平均を下回る傾向が見られた。
「情報通信業では、職場での学びの機会は多いものの、現場で学んだ知識を活用する場を作りづらい状況があるのかもしれません。このようなケースでは、企業のDX推進部や人事部、部門長が中心となって、学んだ成果を共有する場をきちんと設けていくことが重要です」(大塚氏)
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