実はこうした建設費の上昇は、思わぬ副産物を生み出している。それが「選別受注」だ。
簡単に言えば、建設会社側が請け負う案件を選択して受注することである。受注する側が、建設費の上昇に耐えられるような発注者やリスクが少ない安全な工事を選ぶようになっている。今後が不透明な状況が続いているため、より安定して利益を上げられる工事を選択しているのだ。
この背景には、AIなどの需要増加によるデータセンターの相次ぐ建設や、半導体工場の建設ラッシュもある。日経ビジネスの報道によると、鹿島建設は原発やデータセンターなどの大型工事を受注し、大林組も製薬や自動車関連などの工場案件の受注を増やしたという。比較的構造が簡単で納期が早いデータセンターや、価格転嫁をしやすい工場などを選別するようになっていることが見て取れる。
筆者がある事業者から聞いた話では、建設会社の発言力が高まっており、デベロッパーとのすり合わせがうまくいかないケースが増えているという。
そこで思い出すのが、新宿西南口再開発だ。
京王電鉄は、2028年に工事完了を見込んでいた新宿駅西南口の再開発について、建設完了時期を「未定」とすることを発表した。建物を施工する建設会社が、いまだに決まっていないためだ。つまり、少なくとも現時点では、建設各社の「選別受注」で選ばれなかった案件だということになる。新宿駅前という人通りが多い場所で、工事の難易度が高いことなどが敬遠された理由だと言われているが、最悪の場合、建設業者が決まらないまま、新宿駅前に巨大な空き地が残る可能性もある。
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