「中野サンプラザ 白紙化」の衝撃 なぜ再開発は止まったのか(5/6 ページ)

» 2025年04月10日 06時00分 公開
[谷頭和希ITmedia]

頓挫した工事、今後どうするべき?

 では、このようにして再開発が頓挫した場合、どのように対処するのが望ましいのだろうか。私は、それには主に2つの方法があると考えている。

 まず考えられるのは、施設の「再利用」だ。これで思い出すのは、五反田にあるTOCビルである。同ビルは2024年3月に一度閉館したものの、建築費高騰などにより再開発の計画がストップ。同年9月に営業を再開した。一度入居していたテナントがすべて撤退していたこともあって、一時は大混乱となったが、結果的に今でもかつてと変わらない姿で営業を続けている。

 多くの再開発は「施設の老朽化」が建て替えの理由となっているが、物件によっては適宜改修・補修を続けながら使用することが可能な場合もある。そのため、今後はTOCビルのような例も増えてくるかもしれない。

五反田のTOCビル(出典:テーオーシーの資料)

 そもそも、地球環境に対する配慮が叫ばれている昨今、解体して建て替えるという大規模でCO2排出量も多くなる選択肢より、小規模な改修を行いながら、既存の建物を活用することは、長期的な視点でも有用だろう。

 また、「緑地化」という選択肢もあるだろう。少なくとも東京では実現例がそれほどないものの、有効な手段であると考えられる。

 解体費はかかるものの、巨大なビルを建てるよりも圧倒的に建設費を抑えやすい。言うまでもなく、緑地が増えることは、周辺住民や近くで働く人、観光客などの精神的な満足度を高める。

 緑地化に関しては、「採算が取れないのではないか」という反応もあるだろう。もちろん、通常のように高いビルを建ててテナントを入れて収益を上げていくモデルの方が、手っ取り早く収益を上げることができるため、民間の開発であれば明らかに好まれるはずだ。

 一方で、こんな研究もある。ニューヨーク州立大学の研究チームによれば、東京も含めた人口過密状態にある世界の10の巨大都市では、緑を増やすことで、大気汚染の減少や雨水の浄化、CO2排出量の削減などにより、年間5億500万ドルもの利益が出る可能性があるという。「グリーン経済」とも呼ばれる考え方だが、長期的に見れば高層ビルを作るよりも、適切に緑地帯を整備した方が経済コストという観点で見ても優れている可能性があるのだ。

 大阪駅前に誕生した「グラングリーン大阪」に併設された「うめきた公園」は、こうした考え方の下で作られており、大阪駅前という一等地に巨大な緑地帯が整備された。デベロッパーからは当初、実現不可能だと言われていたが、韓国のチョンゲチョンやニューヨークのブライアントパークなど都市の緑地帯の事例を参考に、実現に至った。同公園オープンに先立って日本政策投資銀行と都市再生機構が行った試算によれば、グラングリーン大阪による大阪府への経済波及効果は、年間で639億円だという。

大阪での再開発(出典:大阪市の公式Webサイト)

 「緑地帯」というと、どうしても「稼げない」というイメージがあって敬遠されがちだったが、うめきた公園のような例も出てきている。大規模施設の建築の将来性が見込みづらい今こそ、こうした「緑地帯を作る」発想を広げていっても良いのではないだろうか。

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