さて、話がちょっと長くなってしまったが、「月の石」である。パビリオンのラストに展示されているわけだが、この石は人類が最後に月面に降り立った際に採取されたモノだという(1972年のアポロ17号)。
筆者が取材したメディアデー(4月9日)のときも、多くの報道陣が「月の石」にカメラのレンズを向けていて、何枚もパシャパシャと撮影していた。時間をかけて撮影する人が多く、そのたびに係の人が「はい、終わりです。次の人、どうぞ」と声をかけていた。
今回の万博では、日本館で「火星の石」を展示しているので、米国館の「月の石」は第2の目玉になるかもしれないが、筆者が気になったのは「どうやって運んできたのか」である。
「そりゃあ、米国から飛行機か船で運び、運送会社が会場まで届けたはず」などと思われたかもしれないが、そうではない。宇宙飛行士が月で採取した石や砂などを、どのようにして地球に持ち帰ったのか、という点である。
アポロ11号(1969年)が月面着陸した際、石や砂などを地球に持ち帰るために、当時のNASAは「カバン」を探していたそうだ。宇宙では温度変化が激しいし、地球に帰還するときには激しい衝撃がある。過酷な状況の中でも耐えられるカバンはないか。
そこで、白羽の矢が立ったのが、当時、米国に拠点を構えていたゼロハリバートン社(現在は日本のエース社がブランドを所有)のアルミニウム製ケースだったのだ。ちょっとびっくりしたのは、NASAが採用したのは特注品ではなく、当時、百貨店などの店頭に並んでいたモノだったそうで。内装だけを特別に改良して、ロケットに積み込んだそうだ。
そのケースの名称は「月面採取格納器」。三重密封構造のアルミシェルが月面と同じ真空状態を保ち、湿気や微細な汚染物の侵入を防いだという。結果、21.5キロほどの石と砂を地球に持ち帰ることに成功したのだ。
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