この防衛省の富士重工に対する不誠実な対応は、防衛関連事業を行う民間企業の間で深刻な失望をもって受け止められました。
「国とのビジネスは採算が合わないうえに、約束すら守ってもらえない」という疑念が広がり、この訴訟をきっかけに防衛省との関係を見直す企業が増え、事業を縮小・撤退する企業が相次ぎました。
例えば、軽装甲機動車を手掛けていたコマツ、機関銃を製造していた住友重機械工業、パイロットの緊急脱出装置に用いる火薬を生産していたダイセルなどが、防衛事業からの撤退を表明。他にも多くの企業が防衛産業から手を引く形となりました。
これらの企業はいずれも、極めて高い技術力と製造力を持っています。しかし、利益が出にくい構造や契約リスクの高さから、防衛ビジネスを継続することが経営上のリスクとなると判断したと考えられます。
加えて、近年の資本市場では「利益を出すこと」が強く求められており、収益性の低い事業を長期的に続けることは、株主や投資家への説明責任の観点からも難しくなってきたことも影響しています。市場環境が大きく変化する中で、防衛省との契約がビジネスとしてきちんと成立しなければ、企業は撤退せざるを得ません。
このような中、防衛に対する社会全体の意識も徐々に変化し始め、政府としても、防衛産業を「国家の安全保障を支える基幹産業」として持続可能な形で維持する必要性を認識するようになりました。企業の撤退が相次ぎ、国内の装備供給体制そのものが揺らぎかねないという危機感が、政府の姿勢を変えるきっかけとなったのです。そして、その対応策として、国は防衛装備品に対する利益率の見直しに本腰を入れるようになりました。
こうした動きもあり、三菱重工やIHIの防衛関連産業に言及した資料では、防衛事業を成長の柱のひとつと位置付ける姿勢が明確に表れています。国が制度を整えたことで、ようやく企業も前向きに取り組める環境が整い始めたといえます。
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