「界隈」と「クラスター」は似た概念として使われることがありますが、その起源と性質に違いがあります。
「界隈」は元来「ある場所の周辺地域」を意味する日本語で、SNSの普及に伴い「特定の趣味や関心を共有するコミュニティ」という意味で使われるようになりました。日本のネット文化に根差したこの言葉は、自然発生的に形成される集団を指し、主にSNS上での交流や共通の関心事を通じて緩やかに発展します。例えば「サウナ界隈でバズっている商品」というように、生活者視点での自然な集まりや文化的側面を強調する際に使用されます。
一方「クラスター」は統計学やデータ分析に由来する概念で、似た特性を持つデータポイントの集まりを指します。マーケティングにおいては、データ分析によって見出される集団を表し、より体系的・科学的に定義されます。「美容関心クラスターへのアプローチ戦略」といった形で、データに基づく戦略立案の文脈で登場することが多いのが特徴です。
マーケティング実務では、「界隈」は主に消費現象を説明する際に、「クラスター」は戦略を立案する際に使われる傾向があり、両者は相互補完的に機能していると言えるでしょう。
今回のコラムを書いたのは、マーケティング支援を手掛けるNEL(東京都渋谷区)代表取締役の西田陸氏のお話を、一般社団法人日本オムニチャネル協会の会員向け勉強会であるNextリテール分科会で聞いた学びがきっかけとなっています。
クラスターマーケティングを効果的に実践するためのプラットフォームとして、同社が提供する「osina」というサービスがあります。osinaは、ブランドと顧客を「推し」でつなげるサービスです。
ユーザーはアプリやWeb上で掲載されている商品を見て、店頭で購入したレシートを提出するとキャッシュバックを受け取れます。さらに、商品を使用した感想をショート動画としてSNSに投稿することで、再生数に応じた報酬を得ることができる仕組みです。
osinaの特徴は、「購入」と「発信」を組み合わせることで、リアル店舗での販売促進とSNSでの口コミ拡散を同時に実現できる点にあります。ユーザーは商品を実際に使用した上でコンテンツを作成するため、その内容は説得力があり、クラスター内での評価形成に寄与します。また、レシートデータとSNSデータを組み合わせた分析により、どのクラスターでどのような評価が形成されているかの把握も可能です。
例えば、ロート製薬の化粧水「肌ラボ白潤」では、「化粧水」というハッシュタグにひも付いたクラスターにアプローチし、1カ月間で再生数シェア41%を獲得、売り上げを大きく伸ばすことに成功しました。また、CJ FOODS JAPANの冷凍餃子「王マンドゥ」のケースでは、レシピコンテンツを中心に展開し、店舗によっては30%を超える売上増を達成しています。
クラスターマーケティングは、生活者の「界隈消費」という新たな行動様式に適応し、より効果的なコミュニケーションを実現するための戦略です。生活者は自分の所属するクラスターでの評価を重視し、それがブランドとの長期的な関係構築にもつながっています。
今後、さらに情報環境が分散化する中で、クラスターという視点でマーケットを捉え、各クラスターに適したアプローチを設計することがますます重要になるでしょう。「自分ごと化」された消費体験を提供できるブランドこそが、激しい競争環境の中で生き残る可能性が高くなります。
界隈消費とクラスターマーケティングは、情報過多時代における効果的なブランドコミュニケーションの新たな道筋を示しています。ブランドは自社の商品がどのクラスターと相性が良いのかを見極め、そのクラスター内での適切な評価獲得に注力する必要があります。
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