デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
2030年の日本の小売市場は縮小すると予測されています。複数の調査によれば、2030年の国内小売市場規模は2022年比で約14%減少し、114兆9770億円程度になる見通しです。この縮小の主な要因は、人口減少や消費支出の減少、高齢化による生産年齢人口の減少など、構造的な社会変化にあります。
そんななかで、日本のリユース市場は驚異的な成長を続けています。2009年には1兆1274億円だったこの市場は、2023年には3兆1227億円まで拡大。2030年には4兆円を突破すると予測されています。
この成長を支えているのは、生活者の「不要品=捨てるもの」から「不要品=お金になる資産」への意識変革です。驚くべきことに、日本の家庭には現在約67兆円もの「かくれ資産」が眠っています。一世帯あたり平均110.6万円、一人あたり平均131.7個の不要品を保有しているのです。
リユース業界では、ゲオHDが2440.9億円という圧倒的な売上高で業界の王者として君臨。国内外に2100店舗以上を展開し、特に台湾では2024年に海外100店舗目をオープンさせるなど、国際戦略も加速しています。
リユース業界の成長と拡大を支える上で欠かせないのがDXです。リユース業界が抱える特有のシステム課題と、業界大手が取り組むDXについて紹介します。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
リユース市場が活況を呈する中、業界第2位のブックオフグループも目覚ましい成長を遂げています。書籍・メディア商材からスタートしたブックオフは、現在では総合リユースチェーンへと進化しています。チェーン中古売上高は1204.9億円であり、グループ全体で800店舗を展開しています。海外ではマレーシアなどでリユース店舗「ジャランジャランジャパン」を展開するなど、多角化戦略も着々と進行中です。
第3位のコメ兵HDは、ブランド品買取りのパイオニアとして確固たる地位を築いています。2024年3月期には売上高が1194.5億円に達し、234店舗まで拡大しています。
さらに、J.フロントリテイリングと2025年3月に合弁会社「JFR & KOMEHYO PARTNERS」を設立し、大丸、松坂屋、パルコの店舗内に買取り専門店MEGRUSを出店する計画を進めています。
リユース業界では「かくれ資産」を売る人と買う人は異なるという定説があります。あるインタビューで業界最大手ゲオHDの竹中真幸氏は「売る人と買う人は完全一致せず、基本的には別の人なんです。属性だけでなくペルソナ分析などに加え、どこでどのような人が、何を買っているかなども分析した結果、新品を買う人はリユースに売っていただけますが、リユースで買う人はさらにそれをリユースにはあまり売りません」と発言しています。
(参照記事:Sprocket「『リユースを文化に』。サイトのフルリニューアルで実現を目指すセカンドストリート式のOMOとは?」)
そういう点でもショッピングセンターや百貨店内に買取り専門店を設置する取り組みは可能性があります。
リユース業界には、一般小売業とは異なる独自のシステム課題が存在します。最も根本的な課題は、リユース品が基本的に「一点もの」であることです。通常の小売業で使われる在庫管理システムでは対応が困難であり、買取りから販売までを個品として管理する専用システムが不可欠です。
また、中古品の売買では商品の状態や在庫状況により価格が異なるため、マスター管理、状態管理、個品管理を適切に使い分ける必要があります。
さらに、実店舗とECサイト、複数のECプラットフォームで同時に販売するケースが多いリユース業界では、リアルタイムの在庫連携が極めて重要です。実店舗で売れた商品がECサイトでも購入できてしまうトラブルを防ぐため、実店舗と自社EC、モールへの在庫連動を最短数秒でリアルタイム反映するシステムが必要となります。他の小売業でも発生する課題ですが、JANコードが同一であれば、同じ商品で複数在庫を持てる新品小売よりもシビアに管理する必要があります。
古物営業法に基づく古物台帳の作成・保管も、リユース業界特有の課題です。ユーザーからの買取り時に記入する古物台帳の登録を効率化するシステムの有無が、業務効率を大きく左右します。
変動の激しいリユース市場では、適正な買取り・販売価格の設定が常に課題となっています。この課題を解決する鍵として注目されるのが、AIの活用です。売買履歴や流行トレンドからAIが自動的に査定金額を算出し、「この金額なら何日で売れる」といった予測を行うシステムの登場が期待されます。
リユース業界特有の課題に対応するためには、業界の業務フローを深く理解したシステム開発が不可欠です。汎用的な小売業向けシステムではなく、リユース業界に特化したシステムの導入が、今後の成長のカギを握ります。
業界トップのゲオHDが持つ最大の強みは、レンタルビデオ店時代から培ってきたシステムの内製化にあります。セカンドストリート(2nd STREET)を中心としたリユース事業では、この内製化されたシステム基盤により、低コスト運営と効率的な事業展開を実現しています。
特にオンラインプラットフォームでは「売る・買う・巡る」の回遊性を重視したサイト設計により、顧客体験を大幅に向上させています。このようなシステム面での優位性が、ゲオHDの圧倒的な市場シェアを支える重要な要素となっています。
システム内製化を進めるトップ企業とそれ以外の企業との格差は、今後さらに拡大する可能性があります。DXの波に乗れるか否かが、リユース業界の新たな勢力図を形作ることになるでしょう。
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