デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
筆者は10月、インドへ小売現場の視察に行きました。
前回の連載記事「キャッシュレス大国インドを支える『UPI』システムとは? 現地視察から見えた、日本で電子決済が進まない理由」で述べたように、インドではUPIという、スマホで簡単に利用できる送金システムが急速に普及しており、キャッシュレス先進国になりつつあります。
前回は、そんなインドにおいて、自動販売機が現金非対応である理由を取り上げました。それは「硬貨や紙幣に依存しないことで機器のコスト削減やオペレーションの効率化を実現し、デジタル決済インフラ(UPI)により、生活者、事業者双方が利便性と透明性を享受する」というものでした。
こうしたキャッシュレス社会への移行は、業務効率化のみならず、実は店舗内部における不正行為を抑止する一助ともなります。筆者は以前、大手小売業のロス管理を担当していたこともあるので、今回は不正抑止の観点からキャッシュレス化の意義について考えてみたいと思います。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
インドで現金非対応の自動販売機に続いて驚いた体験は、真新しいショッピングセンターのフードコートでした。フードコートは日本のショッピングセンターと同じような作りであり、一見すると何も変わらないように見えます。
写真を見ていただけると分かる通り、この店舗にはレジがありません。
通常、受付カウンターの上に決済用のレジが置いてあるのですがないのです。この店舗では、注文は全てデジタルサイネージからQRコード決済で行う仕組みとなっています。
QRコード決済に限定することにより、ハードウェアとしてレジ自体が不要な上に、クレジットカード用の読み取り端末も不要となる利点があります。また、現金のつり銭を用意する必要がなく、それを管理する手間も一切かかりません。これは従業員が金銭をごまかすという不正を封じることにもつながります。
さて、写真の店舗では現金もクレジットカードも使えなかったため、他の店舗で昼食をとることにしました。その店舗では、残念ながらインド国内発行のクレジットカードしか使えませんでした。やむを得ず現金で支払ったのですが、なんと「おつりがない」と言われました。現金決済利用率が極めて低いため、釣り銭を用意していなかったのです。
このフードコートが特殊なのではなく、インドでは現金決済の比率が急速に低下しているため、手間をかけて現金でつり銭を準備する店がどんどん少なくなっているのです。
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