リテール大革命

AI活用でEC売り上げ伸長 コスメ世界大手「セフォラ」が進める、攻めのデジタル戦略とは?がっかりしないDX 小売業の新時代(1/2 ページ)

» 2024年10月31日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。

 化粧品小売業界において、1969年にフランスで創業されたセフォラ(SEPHORA)は世界有数の企業です。1997年にLVMHグループに買収され、その後急速に成長。日本からは2001年に撤退しましたが、現在、世界35カ国以上で2700超の店舗を展開し、北米を中心にヨーロッパ、中東、アジアでも強い存在感を持つグローバルリーダーに成長しています。

 セフォラの成功の背景には、従来の百貨店での化粧品販売とは異なるビジネスモデルがあります。顧客が自由に製品を試せる方式を導入し、業界に革新をもたらしました。また、高級ブランドから新興ブランドまで幅広い製品を取り扱い、独自のプライベートブランドも展開しています。

 デジタル戦略においても、オンラインとオフラインを融合させたオムニチャネル戦略を積極的に推進しています。英国の化粧品オンライン購入サイト「Cosmetify」の2024年インデックスによると、セフォラは化粧品小売業者ランキングで1位を獲得。この評価の背景には、1610万件のオーガニック検索トラフィックと2210万人のInstagramフォロワー数があります。これらの数字は、セフォラのオンラインチャネルの強さを示しています。

 これらの要素が組み合わさり、セフォラは化粧品小売業界において独自のポジションを確立し、継続的な成長を遂げています。今回は、セフォラのデジタル戦略を深掘りし、独自性と強みがいかにして形作られているのか、見ていきましょう。

セフォラの独自性と強みを形作ったデジタル戦略とは?(2024年10月、インド・ベンガルールのNexus mall店にて筆者撮影)

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

photo

20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0


AIで高度なパーソナライズ実現 EC売上高が6年で4倍に

 セフォラはAIを積極的に活用しています。

 まず、AIを活用したオンライン推奨システムにより、行動データと取引データを分析し、高度にパーソナライズされた商品レコメンドをしています。これにより、クロスセルとアップセルの機会が増加しました。この効果もあり、ネット通販部門の売上高が2016年の5億8000万ドルから2022年には30億ドル以上に増加し、6年間で4倍以上の成長を達成しました。

 このレコメンドには、さらに個々の肌に合わせる仕組みが加わっています。セフォラの「Color IQ」と「Skincare IQ」は、AIを活用して顧客に高度にパーソナライズされた製品推奨を提供するシステムです。

 Color IQでは、店舗で従業員が手持ちのデバイスを使用して顧客の顔をスキャンし、AIが正確な肌色を識別します。オンラインでも画像分析技術を使用して肌色を識別し、独自の「シェードライブラリ」と照合します。その結果、顧客固有の4けたのColor IQコードが生成され、このコードを使用して最適なファンデーションやコンシーラーを推奨します。

 さらに、このコードは顧客のBeauty Insiderアカウント(セフォラのロイヤルティプログラム)に保存され、店舗、オンラインで利用可能となり、オムニチャネルでの一貫したサービスを提供します。

 Color IQにより色合いの不一致による返品や交換が減少することは地味かもしれませんが、特にEC販売においては見逃せない効果です。

 Skincare IQでは、顧客の特定の肌の悩みやニーズ、製品の好みに関する情報を収集し、AIがそれを分析します。これにより、顧客の肌タイプや状態を判断し、最適なスキンケア製品をパーソナライズして推奨します。さらに、顧客のフィードバックや購買行動を基にAIが継続的に学習し、推奨の精度を向上させています。

セフォラのAI活用(Napkin AIに本原稿をプロンプトとして読み込ませて筆者作成)

顧客満足度をさらに高めた専用アプリ

 さらに、セフォラは「Sephora Virtual Artist」アプリも提供しています。このアプリはAR(拡張現実)技術とAIを組み合わせ、顧客が自分の顔写真を使用してさまざまなメイクアップ製品をバーチャルに試すことができます。これにより、店舗に足を運ばなくても自宅で製品を試せるため、オンラインショッピングの体験を大幅に向上させています。

 セフォラのシステムに限らず、ヴァーチャルメイクは店頭でもメイク落としなしで、さまざまな色を試すことができるメリットがあるため、世界の先進的な化粧品小売業では欠かせない機能になりつつあります。

 これらのシステムにより、セフォラは顧客一人一人に合わせた、高度にパーソナライズされた製品推奨を提供し、顧客満足度の向上と購買決定の簡素化を実現しています。また、これらのツールはセフォラのロイヤルティプログラムと連携しており、顧客のエンゲージメントとブランドロイヤルティの向上にも貢献しています。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR