デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
インドは人口14億人を超える世界一の巨大市場として、多くの海外企業が進出を狙う魅力的な国です。一方で、国内産業保護や雇用創出を目的とした外資規制が厳しく、参入のハードルが高いことでも知られています。
インドのように規制が厳しい海外市場において、日本の小売業が成功する上で参考になるのが、前回のコラムで紹介した中国発の生活雑貨チェーンMINISO(メイソウ)のビジネスモデルです。MINISOは現在、インドや米国など世界中で店舗出店を加速させています。
(参考記事:ユニクロやDAISOにそっくり? ナゾの中国発雑貨「メイソウ」が、世界中で高速出店できるワケ)
今回は、MINISOから日本の小売業が学ぶべきポイントについて解説します。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
インドの外資規制は、主に「単一ブランド小売」(Single Brand Retail)と「複数ブランド小売」(Multi Brand Retail)――という2つの区分に分けられ、それぞれ投資比率や調達義務、インフラ投資要件などが異なる形で定められています。
単一ブランド小売に該当する場合は、国際的に使用しているブランド名と同一であることが条件となり、外資出資比率100%が認められる仕組みが特徴です。具体的にはIKEAやH&M、ユニクロなどが該当します。
外資の出資比率が51%を超える場合には製品調達額の30%をインド国内から調達することが義務づけられていましたが、2019年8月に10%まで引き下げられました。インドでの生産品の20%を国外に輸出するという条件はありますが、このタイミングでユニクロは、単一ブランド小売のインド進出が拡大し、順調に業績を拡大してすでに黒字化を達成しています。
筆者は2024年10月にインドへ視察に赴きましたが、実際にユニクロの店舗に行ってみると、インドオリジナルの商品が多く目に留まりました。規制への対応と同時に、現地の気候に合わせたレーヨン生地の開襟シャツなどニーズに合わせた商品開発がされている印象でした。
また、インド人の平均身長は日本人よりやや低いのですが、XXLサイズまで店頭在庫があったことが印象的でした。実は、インドの女性肥満率は1990年の1.2%から2022年には9.8%に、男性は0.5%から5.4%に増加しています。なお、日本の成人肥満率は先進国で最も低く約4.5%です。
宗教的理由で菜食主義者の多いインドですが、タンパク質の摂取が少なく糖質・脂質が多い食事であるため、実際に筋肉が少なく下腹の出ている人を経済発展が目覚ましい都市部では多く見かけます。サイズのラインアップという点でもローカライズがされているわけです。
一方、RFIDを活用したセルフレジなどの基本的な仕組みは国を問わずに共通です。アプリやECサイトなどオンラインで注文して店舗で受け取るBOPISサービスも日本同様に利用することができます。オンライン決済と店舗セルフレジのいずれもUPIが主要な決済手段となっています。
(参考記事:キャッシュレス大国インドを支える「UPI」システムとは? 現地視察から見えた、日本で電子決済が進まない理由)
一方で、複数ブランドの商品を扱う小売業の参入については、外資出資比率が51%までに制限されているうえに、インドへの高額なインフラ投資の義務に加えて、調達や出店にも厳しい要件が課せられています。
このように規制が厳格な複数ブランド小売では、米Walmart(ウォルマート)が現地の有力企業と合弁会社を設立してまずは卸売業として参入したように、さまざまな迂回策がとられる例も見られます。
DAISOは日本国内で展開する際と同様、店舗で扱う商品のカテゴリーが幅広く、独自ブランドだけでなく有名メーカー品などの他社ブランドも含めた多様な商品を販売しています。
インドの規制では「単一ブランド」とみなされるためには、販売する商品が単一ブランドに限定されていて、商品のブランド名は国際的に使用している同一ブランド名であり、製造工程で付与することといった基準を満たす必要があります。
しかしDAISOの場合、100円ショップの業態上、いわゆる複数ブランドの商品を多数取りそろえる形態です。結果として、インド規制上は「複数ブランド小売」に区分され、外資出資比率や最低投資額など、より厳しいハードルを越えなければならなくなります。
大創産業(DAISO)は「国内市場の飽和や少子高齢化」を受け、海外出店を次の成長戦略の柱と位置付けています。日本で100円の商品を、インドでは99ルピー(約180円)から販売するなど、現地通貨や購買力に合わせた価格戦略を採用しています。
一方で、インドでの生産比率は現状1%程度にとどまり、多くの商品は依然として中国での調達に依存しています。しかし、インドでの生産拡大を模索することで輸入規制・関税の影響を低減し、店舗網の拡大を下支えしようとしています。
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