デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
これまで医療機関と薬局の間でやり取りされていた紙の処方箋に加え、2023年1月から、電子処方箋の運用がスタートしました。2024年7月にはEコマースの巨人Amazonが参入。電子処方箋を用い、薬局を選んで処方薬をオンライン購入できるサービス「Amazonファーマシー」を開始しました。
2024年11月、筆者は初めて、電子処方箋を利用して同サービスを試してみることにしました。かかりつけ医が電子処方箋に対応したのを機に、紙の処方箋ではなくデジタルデータを使って薬を受け取ってみようと考えたのです。
電子処方箋を使ってAmazonファーマシーを利用すれば、アプリからオンライン服薬指導を受け、自宅配送か店舗受け取りが選べます。とても便利そうに思えますが、実際にはこの時も、翌年1月の再挑戦時にも、筆者は思わぬトラブルに見舞われることになりました。
今回は筆者の実体験を通じて、電子処方箋運用の現状と課題について考えてみたいと思います。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
Amazonアプリからマイナンバーカードを利用したオンライン資格を確認し、薬局と服薬指導の時間帯を選んで予約するところまでは問題ありませんでした。この際の手順は以前、友人で薬剤師の水さんの体験を書いたものと同じです。
※関連記事:Amazonファーマシー体験レポート その仕組みと収益モデルは?
ところが、予約した数時間後に予約をした薬局から電話がかかってきました。
「処方箋の引換番号がすでに使用済みになっている」とのことでした。薬局からクリニックに電話をかけたが誰もいないようで電話がつながらないとのことでした。
クリニック初の電子処方箋ということで事務スタッフの作業に時間がかかっていたのですが、そこで何か操作ミスがあったようです。「引換番号」は電子処方箋のデータを医療機関から薬局が受け取る際に必須の番号なのですが、リカバリーの方法が薬局にはないとのことでした。
運悪く翌日は祝日でクリニックは休み。週明け月曜まで連絡ができません。さらに筆者は月曜午前の便で3日間の海外出張に出ることになっていました。
電子処方箋が使えない以上、Amazonファーマシーのシステムは利用できません。Amazonアプリはグローバルアプリであり、海外ではその国用のメニューに変わるためAmazonファーマシーの仕組みが使えない可能性が考えられます。出張先は米国でしたが、以前書いた通り、日本のAmazonファーマシーと米国のAmazon Pharmacyは別物です。
※関連記事:Amazonファーマシー、日米でどう違う? 比較から見える「ビジネス巧者ぶり」とは
結果として、月曜の朝に薬局からクリニックに電話をしてもらい、後日、紙の処方箋原本をクリニックから薬局に送ってもらうことにして、空港にいるときに電話で服薬指導を受けました。
そして、薬自体は帰国翌日に薬局まで直接取りに行き、薬局で支払いをしました。なお、その薬局はシステム投資に積極的で、初めて薬局でセルフレジでの支払いを行いました。
この経験を通じて感じたのは、「電子処方箋は確かに便利な面もありそうだが、まだ過渡期特有の運用上の混乱が多い」ということです。次ページから詳しく解説します。
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