デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
2024年7月、日本で「Amazonファーマシー」がサービスを開始しました。「薬局を選んで処方薬を買えるサービス」で、前回の連載記事「Amazonファーマシー体験レポート その仕組みと収益モデルは?」において、そのビジネスモデルや利用して見えてきた課題などを解説しました。
実は同様のサービスに、2020年に米国で始まった「Amazon Pharmacy」があります。名称だけ見れば、今回のサービスはその日本版のように思えますが、実際には大きな違いがあります。両国のサービスを比較しながら、その特徴と背景にある医療制度の違いを整理していくと、Amazonが各国の状況に合わせて、巧みにビジネスモデルを適応させている様子が見えてきます。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
まず、米国と日本のサービスで最も大きな違いは、その本質にあります。米国のAmazon Pharmacyは、文字通り「Amazonの経営する薬局」です。Amazonが直接、処方箋医薬品を販売し、配送しています。日本の薬剤師である筆者としては「処方箋医薬品を販売」という表現は使いたくないのですが、ここではAmazonに合わせてそのまま表現します。
一方、日本のAmazonファーマシーは「薬局を選んで処方薬を買えるサービス」です。つまり、日本でAmazonは薬局と患者をつなぐプラットフォームとしての役割なのです。この違いは、両国の医療制度や規制の違いから生まれています。
なお、日本においてAmazonが直接薬局を運営することは規制の影響で難しいと解説する記事を見かけますが、ボトルネックはそこではありません。日本でもAmazon自らが薬局を出そうと思えば出すことは可能です。
米国のオンライン薬局は急速な成長を見せています。2023年の927.2億ドルから2024年には1088億ドルに拡大すると予測されています。これは、薬局市場全体の約20%を占める規模となっています。
この急成長はコロナ禍以降定着した部分が多く、CVSやWalgreenといった大手ドラッグストアが店舗を閉鎖して集約する動きをしている一因です。そもそも米国ではリフィル処方箋制度が定着しており、アプリやWebサイトを通したリピート注文は一般的なサービスです。米国でのAmazon Pharmacyはこのサービスへの後発参入です。
ここで、リフィル処方箋制度について、少し詳しく触れたいと思います。リフィル処方箋とは、一定の定められた期間内に反復使用できる処方箋のことで、患者が医師の再診を受けることなく、処方箋1枚で繰り返し薬局において薬を受け取ることができる処方箋です。
病状が安定した患者において医師が期限を決めて処方箋を書き、その期限内であれば薬剤師のモニタリングの元に、その都度繰り返し調剤が行われます。薬剤師はモニタリング結果を薬歴や調剤録に記録をとり、薬剤師が再受診を必要とすると判断した場合は、調剤は行われず主治医に受診勧奨を行うという、薬剤師によるモニタリングを前提とした仕組みです。
患者にとっては医師のもとを訪れる手間が省け、医療費削減にもつながるメリットがあります。医師のメリットは治療が必要な患者に専念することができ、負担が軽減されることにあります。
日本では、2022年4月の診療報酬改定で導入されましたが、現時点では十分に活用されていない状況です。2022年10月時点で総受付件数に対するリフィル処方箋の割合は0.102%でした。
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