この記事は、LINEヤフーが開催したイベント「Hello Friends! W!th LINEヤフー」をレポートした記事の前編です。
帝国データバンクによると、2024年に発生した「ラーメン店」経営事業者の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は72件で、過去最多を更新した。人件費や電気代、原材料コストの高騰、ラーメン1杯=1000円という消費者意識からの価格転嫁の難しさなど、ラーメン店経営を取り巻く環境は厳しい。
こうした中で重要なのが、店のファンになり、通い続けてくれる常連客をいかに獲得するかだ。消費者はどうすれば通ってくれるのか、頭を悩ませている事業者も多いだろう。新規顧客を誘導し、常連化することに成功している桂花拉麺(熊本県菊陽町)の事例を紹介しよう。
桂花拉麺は昭和30年創業。現在、熊本県と東京都に計16店舗を展開している。創業当時の味を守る桂花拉麺や、たっぷりの生キャベツと、豚角煮「太肉(ターロ―)」がのった太肉麺が人気だ。
飲食店のリピート施策といえば、ポイントカードが代表的だ。同社も2019年からネイティブアプリ(スマホ向けの独自アプリ)の運用を開始。来店ごとにポイントを付与し、一定数貯まれば「ラーメン1杯無料」などのキャンペーンを行った。
この取り組みに対し、常務取締役の小林史子氏は「そもそものダウンロード数が伸びない、キャンペーンの周知が不十分という課題があり、あまり効果を感じられていなかった」と振り返る。そこで着目したのが、LINEミニアプリだ。
LINEミニアプリは、ユーザーがアプリを追加でダウンロードしなくても、さまざまなサービスをLINE上で利用できるプラットフォームだ。LINEアカウントがあれば利用でき、会員証やモバイルオーダー、行政手続きなどにも活用されている。
桂花拉麺はネイティブアプリと併用して、LINEミニアプリを導入。小林氏は導入した理由について「ネイティブアプリと異なりダウンロードが不要で、利用するハードルが低いから」と説明する。
LINEミニアプリを導入するに当たり、同社は「日常的に桂花拉麺を思い出してもらうこと」を徹底した。その1つがログインボーナスだ。LINEミニアプリに1日1回ログインした顧客には、10ポイントをプレゼント。100ポイント貯めれば、ネギやメンマなどのトッピングと交換できる。クーポンのように企業が送付するのではなく、ログインボーナスとすることで、顧客に毎日アクセスすることを意識付けた。10回以上起動したユーザーは全体の80%以上(2025年1〜4月実績)を占める。
「一方的に送られたクーポンより、自身がログインして獲得したクーポンの方が利用意欲が高い。また、ポイントの有効期限を短めに設定することで、短期間での再来店をさりげなく促し、来店のハードルを下げる狙いがある」(小林氏)。クーポン利用率は84%(2025年2月時点)で、小林氏は「常連化に成功している」と分析する。
LINEミニアプリには自社のオリジナルキャラクター・桂花ボーイが登場する。「午後も元気に頑張れると?」「夕方の一杯、ラーメンどうばい?」など、桂花ボーイは熊本弁で話しかける設計だ。桂花ボーイのセリフはAIで作成し、パターン化しないようにしつつも、セリフ作成にかかる工数を削減した。ちなみに熊本弁は桂花拉麺が監修し、本場の熊本弁にこだわっているという。親しみやすいキャラクターで、LINEのブロック防止や、飽きずに使い続けることを狙っている。
桂花拉麺は4月にネイティブアプリを廃止し、LINEミニアプリに一本化した。今後は桂花ボーイを対話ができるキャラに改良し、より顧客接点を増やすことを計画している。また、LINEミニアプリに決済機能が追加予定であることから、EC活用も検討中だ。
無数にある選択肢の中から消費者に選ばれるためには、第一想起されるブランドになることが重要だ。その点で、「日常的に桂花拉麺を思い出してもらうこと」にフォーカスした同社のミニアプリの施策が効果を生んでいるのは必然ともいえる。この基本に忠実な取り組みは、飲食店に限らず消費者向けの市場で戦う多くの企業の参考になるだろう。
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