企業側には、もう一つ大きな負担がある。この新法に絡んで政府などと情報共有する際には、経済安全保障分野の重要情報を取り扱える人を国が認定する「セキュリティ・クリアランス(適性評価)」制度を活用することになるからだ。
日本では、5月16日にセキュリティ・クリアランス制度が始まったところだが、適性評価には飲酒や借金、国籍などの身辺調査が必要になり、民間企業で対応が進むかは不透明である。というのも、社員や職員の中には身辺調査を望まない人も出てくると想定され、社内で混乱が起きる可能性がある。これに企業がうまく適応できるかどうかは未知数だ。
しかし、忘れてはいけないのが、サイバー攻撃のターゲットになりやすい先進国の多くでは、すでにこうした対策を講じていることだ。日本は10年遅れているといわれている。
やっと日本政府が、日本人の安全と、国の根幹となる経済を支える企業の知的財産などを守る対策に乗り出したことは素直に評価すべきだろう。ここからは時代の流れとともに、政府の対策も常に進化していく必要があることを忘れてはいけない。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
ようやく制度化「セキュリティ・クリアランス」とは? 民間企業にどう影響するのか
BYDの“軽”が日本に上陸 エコカー補助金の陰に潜む“監視リスク”
日本発の「夢の電池」はどこへ? 日本の技術がどんどん流出する理由
大阪・関西万博に忍び寄る“デジタルの影” サイバー攻撃は開幕前から始まっていた
「KADOKAWA」「ニコ動」へのサイバー攻撃、犯人と交渉中の暴露報道は“正しい”ことなのかCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング