同社の個人向け名刺アプリ「Eight」での経験も生きている。Eightにも類似の「お礼メール」機能があるが、小川氏は「PMFしていない」と率直に認める。それでもSansanでは成功が見込める理由として、B2BとB2Cの課金モデルの根本的な違いを挙げた。
「C向けの場合、ユーザーから課金することの難しさがある。課金ユーザーは一定数しかいない」。Eightは約350万〜400万人のユーザーを持つが、有料課金する利用者は限られる。こうした課金ユーザー向けにサービスを磨くことの「ビジネスボリュームの難しさ」が、機能開発への投資を制約してきた。
一方でSansanは約1万社の法人顧客を持ち、1社あたりの年間売上(ARPU)も個人ユーザーとは桁が違う。同社の2025年5月期第3四半期のSansan売上高は約67億円で、1社あたりの売り上げは年間200万円を超える。
Eightでは手動での操作が前提だったお礼メール機能も、Sansanでは完全自動化を実現した。「自動にしてくれたらお金払うのに、と思っていたユーザーもいたが、Eightだと単価とボリューム感で成り立たなかった」。B2Bなら自動化コストを価格に転嫁できるという判断が、新サービス開発の決め手となった。
特定の業界セグメントで強いニーズがあることが分かれば、そのセグメント内の企業から十分な事業規模を確保できる。展示会への出展が多い業界や、不動産・広告業界など、名刺交換の頻度が高い企業を特定し、集中的にアプローチする戦略だ。
今回の新サービスは、より大きな構想の第一歩に位置付けられている。小川氏は「デジタル名刺ソリューションの先にあるのはオンライン側」と将来展望を語る。
コロナ禍を経てビジネスシーンはハイブリッド化が進んだ。対面での名刺交換は復活したものの、オンライン商談での「名刺交換がない」状況は課題として残ったままだ。Sansanも過去にQRコードを使った名刺交換機能を提供したが、「読み取りのタイミングを見極めるのが難しく、実際には定着しなかった」のが実情だった。
営業DX市場ではSalesforceやHubSpotなどの米国勢が多機能なCRM(顧客関係管理)システムで先行する。これに対しSansanは、日本特有の名刺文化に根ざした「渡す価値」の創造で差別化を図る。
同社の野心は、営業DXサービスとしての領域拡大にも及ぶ。従来は「名刺を受け取って管理する」市場の開拓に注力してきたが、今度は「名刺を渡す価値」という新たな市場の創造に挑む。これが成功すれば、名刺管理から営業活動全体をカバーする総合的なソリューションへの発展が期待できる。
新サービスによって、名刺交換した相手企業に自社のデジタル名刺が広まれば、Sansanブランドの認知度向上という副次効果も期待できる。「受け取った相手は、なぜこの会社からデジタル名刺が届くのかと疑問に思う」。こうしたブランド体験の積み重ねが、名刺管理サービスの新規顧客獲得につながり、1万社から2万社への拡大を後押しにもつながる。小川氏は「当社にとっては強みを生かした形で勝負ができる領域」と自信を示した。
【お詫びと訂正:5月26日午後2時00分の初出で、「2025年5月期第3四半期までのSansan売上高は約67億円」としておりましたが、正しくは「2025年5月期第3四半期のSansan売上高は約67億円」でした。5月27日午前9時30分、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】
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