新時代セールスの教科書

Sansan“超シンプルな新機能”で再攻勢 ターゲットは「名刺のお礼」送りきれない営業(1/2 ページ)

» 2025年05月26日 14時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 「営業が展示会で200枚名刺交換したとして、興味を持ってくれた10人には次のアクションを取るが、残りの190人には何かするだろうか」――。Sansan事業部の小川泰正事業部長が語るこの問いかけは、多くの営業担当者が抱える現実だ。

 実際、受け取った名刺の約6割が活用されず、営業担当者がフォローメールを送るのは4人に1人にとどまる(必ず送っている:9.7%、ほぼ送っている:15.7%の合計)。働き方改革が進む中、残業を控える風潮もあり「お礼メールを送りたくても時間がない」という声も聞かれる。こうした名刺交換の現場で生まれる機会損失に、Sansanが新たな解決策を打ち出す。

 5月26日に発表する「デジタル名刺ソリューション」は、名刺をスキャンするだけで相手企業に担当者のデジタル名刺を自動送付する極めてシンプルな仕組みだ。営業支援ツールが多機能化する中で、あえて「名刺交換した人に自動でメールを送る」という基本機能に絞り込んだ狙いを、小川氏に聞いた。

せっかく名刺交換しても、活用できていない悲しい現状

 「これまで当社は受け取った名刺の管理に向き合ってきたが、渡した名刺の課題には目を向けていなかった」。小川事業部長は今回のサービス開発の背景をこう説明する。

 同社の調査によると、名刺を受け取る機会が多い購買部門などの約6割が「すぐに使える状態で管理できていない」と回答した。一方で、社外の連絡先を探す際に約7割が「メールボックス」を使うと答え、紙の名刺よりもデジタルでの連絡手段が重視されている実態が浮かんだ。

上:受け取った名刺の取り扱い方法、下:紙の名刺の紛失や整理不足により、必要な連絡先を見つけられなかった経験があるか(Sansan調べ)
仕事上で必要な社外の連絡先の探し方(Sansan調べ)

 さらに深刻なのは送り手側の状況だ。営業担当者への調査では、名刺交換後にフォローメールを「必ず送っている」人は1割未満にとどまる。「あまり送っていない」が約26%、「全く送っていない」も約22%に上った。

 人手不足のさなか営業担当者の本音は次のようなものだ。「本気度の薄い名刺交換相手だと、担当も代わる中で継続的にフォローするのは難しい」「商談が立て込むと、名刺交換から時間がたってしまい、今さらメールを送るのも気まずい」

名刺交換や初回商談後にフォローメールを送っているか(Sansan調べ)
名刺を整理していない理由(Sansan調べ)

 「名刺交換から半年以上後に商談に発展するケースも多いが、いざ連絡しようと思っても連絡先にたどりつけない機会損失が発生している」と小川氏は課題を指摘する。これを解決するのが今回のサービスだ。

 新サービスは2つの機能で構成される。核となる「デジタル名刺メール」は、受け取った紙の名刺をSansanでスキャンすると、翌日に相手のメールアドレス宛に自分のデジタル名刺が自動送信される仕組み。もう1つの「デジタル名刺メーカー」では、紙とデジタルの両方の名刺を統一フォーマットで作成・管理できる。現時点では追加オプションとして提供され、既存顧客へのアップセルを狙う。

紙の名刺をスキャンするだけで、相手にデジタル名刺を自動送付できる機能(提供:Sansan)
デジタル名刺には、企業名や氏名、連絡先など一般的な紙の名刺と同様の情報が含まれている(提供:Sansan)

Sansanがあえて“超シンプル”なサービスを提供する狙い

 営業支援ツールが多機能化する中で、Sansanがあえてシンプルな機能に絞り込んだ背景には、確実な市場浸透を図る戦略がある。小川氏は「大きな絵を描くこと自体はそんなに難しくないが、結局PMFさせることが重要」と語る。PMFとは「プロダクト・マーケット・フィット」の略で、製品が市場のニーズに確実に応えている状態を指す。

 「当社は確実に1歩を積み上げて、その1歩が確信に至るものを持てば2本目3本目に行く」。小川事業部長が示すのは、複雑な機能を一度に提供するのではなく、シンプルな価値から段階的に発展させる手法だ。現在、約50社が新サービスを利用しており、「これが100社になり、1歩1歩積み上げていく」ことで確実にPMFを達成してから次の展開を図る方針だ。

Sansan事業部の小川泰正事業部長

 これは同社が名刺管理市場で培った経験が戦略の裏付けとなっている。法人向け名刺管理サービス市場では同社が84%のシェアを占め、利用企業数は1万社に達する。この成功パターンを新領域でも再現する狙いだ。

 「ビジネスインフラとして習慣を作りにいく」。小川事業部長の言葉からは、単なるツール提供を超えた野心が透ける。紙の名刺交換が当たり前の文化として定着したように、デジタル名刺の自動送付も新たなビジネス文化として根付かせることを目指している。

 同サービスは個人ではなく企業から送る設計になっている。「個人から送るのであれば、会った時のやりとりについても入れたくなってしまう」一方で、企業から送ることで「一律なメッセージにできる」。実証実験では、こうした企業からの統一メッセージが「悪い気はしない」という自然な受信体験につながることを確認した。メルマガのような広告色がなく、「紙の名刺を受け取った感覚と近い感覚をデジタルで受け取っている感じ」が実現できているという。

 最初のターゲットは、展示会に頻繁に出展する企業、不動産業、広告業など「回転の早いビジネス」だ。名刺情報をリード(見込み客)としてマーケティングオートメーションに組み込むまでに至っていない企業を狙う。

 これらは名刺管理サービスを導入していない企業との接点が多い業界でもある。これらは、偶然にもSansanが創業期に最初に獲得した顧客層と同じだという。「Sansanの最初の顧客は『5ID、1スキャナーでいい。来月展示会があるんだ』という会社だった」。過去に培った顧客理解を生かし、確実に価値を提供できる領域から攻める。

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