この記事は、顧客プラットフォーム「coorum」の開発・運営を行うAsobica(東京都品川区)が開催した「CX+ Summit 2025 『CX to BX』"ホンネデータ"からはじめるビジネス変革」内のセッション「選ばれるブランドに必要なコミュニケーション戦略」をレポートした記事です。
商品、サービスがあふれる現代において、顧客に長く愛され続けるブランドを確立することが重要度を増している。顧客との関係を構築し、選ばれ続けるブランドに育てていくには、どのような工夫ができるのだろうか。
Mizkan発のD2Cブランドで野菜を使用した麺やパンを扱う「ZENB」を担当するMizkan Holdings(以下、ミツカン)の佐藤武氏と、Spotify Japanの田村千秋氏が「選ばれるブランドに必要なコミュニケーション戦略」について対談した。モデレーターは、元Mizkan社員で、タネトシカケ代表取締役の髙口裕之氏が努めた。
食品という「実体のあるもの」を提供するMizkanと、音楽という「無形の体験」を提供するSpotify。両社は顧客とのコミュニケーションについて、どのような戦略をとっているのだろうか。その秘訣に迫っていく。
「ZENB」は、2018年に誕生したミツカン発のD2Cブランドだ。プラントベース、フードロス削減、クリーンラベルを掲げ、使用する食材は皮や芯までまるごと使用。動物性原料や不要な添加物を極力排除する方針で販売している。商品は、黄えんどう豆を使った「ZENBヌードル」「ZENBブレッド」「ZENBチップス」などを販売している。
「ZENBは、日本のブランドでは珍しく『グルテンフリー商品だから』という理由による購買が圧倒的に多いんです。そして、私たちのお客さまの多くは『グルテンフリーには興味があるけど、おいしくなくて続けられなかった』という共通の悩みをお持ちでした。ZENBの商品は、食材はもちろん“味”にもこだわっています。それがブランドへの興味、関心につながっていると感じています」(佐藤氏)
まずは、ZENBの方針に興味を持った人が、ブレッドやヌードルといった主力商品を試しに購入する。そして、「おいしい」という体験から、他の商品へのクロスセルが生まれ、結果的に「グルテンフリー」を続けられるという。
ZENBのメインターゲットは、食を通じて健康や美容で自己解決を図るなど、目的意識を持って食をしていく人。つまり、グルテンフリーなどの実利的な便益に魅力を感じる層だと佐藤氏は語った。そして、サブターゲットに「ブランド文脈に共感し、それを世の中に広めてくれる人」を据えているという。
「こうした方々はLTV(顧客生涯価値)が高く、商品を人に伝えてくれる傾向があります。そのため、ブランドを一緒に成長させるパートナーとして捉えています」(佐藤氏)
この戦略が功を奏し、ZENBは着実に売り上げを伸ばしている。しかし、ブランド立ち上げ当時は「エシカル消費」などの思想面に共感する層をメインに据えていた、と佐藤氏は打ち明けた。
「当初は、『グルテンフリー』という機能を全面に押すつもりはなかったんです。でも調査した結果、生活者に刺さったポイントは、『タンパク質がとれる』『グルテンフリー』といった機能面でした。そこで、コミュニケーションの優先順位を変えていったのです」(佐藤氏)
「選ばれるブランドに必要なコミュニケーション」について、ZENBのコミュニケーションで重視しているのは「いかにエモーショナルに刺すか」だ。
「前提として、ZENBは『私、意識高いことやってるの』という人を増やしたいわけではありません。『ZENBを使っていたら、結果的にエシカルな暮らしが定着していた』、という世界観をつくりたいんです」(佐藤氏)
では、どうやってエモーショナルに刺していったのか。佐藤氏は、認知形成の順番が大切だったと振り返る。
「ZENBは、糖質オフでタンパク質も食物繊維も摂れる、オールインワンの食品です。まず、この事実を全面に押し出すのが、一番いい認知形成なんですよね。なぜかというと、その先を見たくなる情報だから。目的意識を持った方が、人は見てくれるのです」(佐藤氏)
その実利的な便益の先に、「地球にもいいことしてる」という自己実現に近い欲求を満たす、エモーショナルな価値を伝える。そして、さらに先のコミュニケーションである「誰かに伝えたくなる」という点も重視し、ギフトボックスなどの外装にもこだわっている。
「『私が見つけたブランドを、あなたもどうぞ』『こんな地球にもいいブランド、私が見つけましたよ』──そういうコミュニケーションが、実は顧客満足を上げるきっかけになると分かったんです」(佐藤氏)
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