こうした他業種チェーンにおける新規商材開発の流れの中で、既存の個人経営のカレー店は存続の危機にひんしている。
しかし、なぜ牛丼チェーンはカレーに目をつけたのか。それは、「牛丼」だけの経営が飽和状態になってきているためだ。すでに牛丼チェーン各社の店舗数は、かろうじて微増ではあるものの、ほぼ横ばいとなっており、出店の余地がなくなりつつある。
こうした状況下で、大企業がその規模を維持していく、あるいは成長していくためには、新しい業態に進出して顧客数を増やすことが必要となる。牛丼は味の違いを出しづらく、横並びになりがちであることから、競争はより激しくなる。ただ、カレーはレトルトやチルドでの調理が可能であり、牛丼チェーンでのオペレーションでも導入しやすい。そこでカレーに目が向けられたのである。
チェーン企業の努力は素晴らしい。しかし、こうした状況を取材すると、「不健全だな」と思うこともある。
なぜなら、大企業による新規業態・商品開発によって個人店が苦境に立たされるということが、多くの業界で起きているからだ。
その1つがラーメンである。ラーメン店も、2024年の倒産が最多であることは前述の通りだ。
牛丼チェーンの吉野家は5月に発表した中期経営計画の中で、吉野家の第3の柱を「ラーメン」にするとした。すでに同社は多くのラーメン店、およびラーメン関連企業をM&Aにより買収しており、牛丼だけではない、複数ブランドを展開する外食チェーンを目指している。もちろんこうした買収は、チェーン企業にとっても買われる側にとってもWin-Winであり、何ら批判するところはない。
ただ、こうした動きが加速すればするほど、多くのラーメン店がチェーンオペレーションとなり、個人店が減っていく。それにより、1店舗だからこそできた斬新なチャレンジや取り組みを行える店が減ってしまうのではないかと、筆者は危惧している。
もちろん、チェーンオペレーションだから大胆な挑戦ができないなどと言うつもりはなく、そう簡単にチェーン店と個人店が対立することはないだろう。しかし、個人店には独自の良さがあるのは確かであり、チェーン店との対立が進むことで、こうした個人店が生き残りづらくなっていることは明白な事実である。
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