なぜ今、ドコモは住信SBIネット銀行を買うのか? 4200億円の本当の勝算(3/5 ページ)

» 2025年06月17日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

なぜSBIは“BaaS”を手放すのか?

 今回の取引で注目されているのは、SBIホールディングスが高収益かつ将来性の高い住信SBIネット銀行を手放す判断を下した点である。

 同行はBaaS事業を軸に急成長しており、グループの中でも存在感を放っていた。しかし、なぜそのような重要な資産を譲渡するのだろうか。

 それは、住信SBIのBaaSモデルが、すでに「他社でも運用可能な成熟インフラ」となったことが大きいと、筆者は考えている。

 同行のビジネスモデルは、APIを通じて多数のパートナーと接続されており、必ずしもSBIグループ内にとどめておく必要はなくなっていた。実際、楽天銀行も同様のビジネスに乗り出しており、同行のライバルとなっている。SNSを中心に大きな話題となったJR東日本グループの銀行事業「JRE BANK」は、NEOBANKではなく楽天銀行のBaaSが元になっている。

楽天銀行のBaaSを利用したJRE BANK(出典:JRE BANK公式サイト)

 他にも、みずほ銀行は「みずほBaaS」を掲げ、決済や口座開設を外部アプリに組み込める仕組みの提供を始めている。また、GMOあおぞらネット銀行は法人向けBaaSに特化し、複数のフィンテック企業と提携しており、業界内での競争激化の兆しがある。

 つまり、住信SBIのBaaSモデルは、すでに市場における先行優位性をある程度確立した一方で、独自性は薄れつつあったのだ。また、JR東日本やヤマダ電機のように、消費者に広く知られている大手企業の数には限りがある。それに加えて、何十もの事業者と提携しても、顧客が開設した口座全てをメインバンクのように使うことはない。

 高還元のキャンペーンが一段落したタイミングで集まった預金は、既存のメガバンクなども含め、1〜2行に流れていく可能性が高い。

 そう考えると、BaaS黎明(れいめい)期の目覚ましい成長と話題性は永続的なものではなく、次第にレッドオーシャンとなる可能性がある。顧客の資産も有限である以上、市場のパイが限られているビジネスなのである。

 そのため、SBIグループにおいて、BaaSの重要性が相対的に低下したと考えられる。ドコモの買収が完了すると、議決権割合はドコモと三井住友信託銀行でそれぞれ50%になる。SBIグループは完全に手を引くのも、そのような構図が見えたからかもしれない。

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