そこで分かったのは、中国共産党が、中国でも違法であるはずのフェンタニル関連物質や他の合成麻薬の密売を放置していることだ。しかも、政府として助成金も与えている。さらにフェンタニル関連物質などの製造と輸出を、税金還付によって直接補助していることも分かっている。
こうした話以上に深刻な指摘もある。麻薬密売に関与するいくつかの中国企業の所有権を中国政府が有していることである。
つまり、中国は意図的に現代の「アヘン戦争」を米国に仕掛けている、というわけだ。トランプ大統領は「中国共産党は違法オピオイドを制限する能力が欠けているわけではなく、ただその意志がないだけだ」と語っている。
では、日本企業にはどんな影響があるのか。先述の通り、米議会の調査結果によると、中国政府が麻薬密売に関与している会社などを所有している。詳しく見ると、中国政府が管理する刑務所が麻薬密売化学会社を所有していることが発覚。上場している中国企業が数千件もの麻薬密売の勧誘情報をオンラインで掲載しているケースもあるという。
つまり、なんの変哲もないように見える中国企業が、麻薬につながっている可能性もある。日経新聞でもいくつかの中国系企業が名指しされているが、中国国内でも数多くの企業がこの取引に関与していると見られている。そのような企業が米国の制裁対象になれば、そこと付き合いがある企業は、日本企業であっても、米国で大きな仕事はできなくなるだろう。制裁違反で罰金を科されるようなケースも考えられる。
そうならないために、付き合いのある中国企業や、協業などを検討する中国企業のことをしっかりと調査した方がいいだろう。本連載でも取り上げたが、欧米では常識となっている企業インテリジェンスのサービスを利用するというのも手だろう。とにかく、危機管理意識をこれまでよりも高く持つべきだ。
フェンタニルの問題は、これからも米中の貿易交渉などで取り沙汰されるだろう。今のように取引ができなくなったら、日本が経由地としてのみならず、フェンタニルを消費する市場にされてしまう可能性もあり得る。日本企業も今後の動きを注視しておくべきではないだろうか。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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