「頑固で怖そうな店主」がいる店が人気なのは、まさにこの理由からだ。確かに、その手の店はこだわりが強いので料理のクオリティーも高い。実は「店側に厳格に支配され、いつ怒られるのか分からない緊張感の中で食事をする」という「エンタメ体験」が客を引き寄せているところもあるのだ。
もちろん、そのような雰囲気が不快な人は「二度と来るか」となるが、ハマる人はどっぷりハマって「信者」になる。彼らは店に全てを支配されながら食事をすることが苦痛どころか心地良くなっているのだ。
「バカじゃないの? 厳しいルールに服従することが楽しいわけないだろ」と冷笑する人も多いだろうが、実は日本にはこうした傾向を持つ人が一定数いる。他人にあれこれ指示してもらったほうが自分で何かを決めなくていいから気楽でいい、という「指示待ち人間」なのだ。
さまざまな調査で日本のビジネスパーソンには「指示待ち人間」が多いという結果が出ている。例えば、社員研修や組織開発などを手掛けるリ・カレント(東京都新宿区)が2021年に公表した「若手意識調査」によれば、若手の中で仕事をする際に「まずは何事も上司・先輩の指示のもとで動く」(11.3%)、「失敗しないよう基本的には周囲や上司に確認しながら業務を行う」(30.9%)と回答した人は合わせて42.2%にも達している。
そんな「指示待ち人間」からすれば、ラーメン二郎はそれほど苦痛な場ではない。店の「指示」通りにきれいに並び、店の「指示」通りに注文をして、店の「指示」通りの食べ方をして去っていく。これらが体に叩きこまれてしまえば自分の頭であれこれ考えて動く必要がないので、一般的なラーメン店よりも快適かもしれない。
実際、ラーメン二郎が「指示待ち人間のユートピア」と化していることを象徴するような「出来事」がちょっと前にあった。2024年5月、ラーメン二郎 新宿歌舞伎町店で火災があったのだが、それを報じたテレビの映像の中で、煙が出ている店内でラーメンを食べ続けている客のシーンが流れて大きな話題になったのである。
ネットやSNSでは、「正常性バイアス」(明らかにおかしい状況でも大丈夫だと思ってしまう心理的特性)という声が多数上がったが、実はこれはそういう難しい話ではなく、ラーメン二郎と客の関係を考えれば当然の結果だ。
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