ここまで繰り返し述べたように、ラーメン二郎の客は店の「指示」に忠実に従わなくてはいけない。そのルールが守れない者は迷惑をかけていると出禁になるのだ。つまり、店内が煙に包まれて「おかしいな?」と思っても、店員の「指示」がない限り、逃げようとしないのだ。
実際、この画像を見てみると、ラーメンを食べている客のカウンターの向こうには店員がいる。つまり「避難」の指示をしていないから、客も逃げる必要はないと判断して、ラーメンをすすり続けていた可能性が高い。
店員が「早く逃げてください」と指示しているにもかかわらず、「まだ大丈夫だろ」とラーメンをすすり続けているのならば、確かに「正常性バイアス」のなせる技だが、そういう話ではないのだ。
このような話をすると、店の対応を批判しているように聞こえるかもしれないが、筆者が指摘したいのはそこではない。
近くで火の手が上がっているにもかかわらず、店からの「指示」があるまで動かない客というのは、ラーメン二郎に対する「ブランド・ロイヤルティ(顧客がブランドに対して持つ愛着や忠誠心)」が尋常ではないほど高い、ということが言いたいのだ。
「客を支配する」と聞くと、何やら悪どいイメージを抱くかもしれない。しかし、過去に本連載でも紹介した「カルトマーケティング」のように、海外では宗教の信者のような熱狂的なファンをいかに獲得するのかという課題に、世界的ブランド企業も本気で取り組んでいるのだ。
これから消費者が激減していく日本市場では、マス層を取りにいくことは難しい。となると、世の中に広く受け入れられなくとも、一部の“熱狂的な信者”だけを獲得する「カルトマーケティング」の需要は増えていくだろう。
今、外食や小売ビジネスの現場では、「オレは客だぞ」と店員に高圧的な態度で嫌がらせをするカスハラ客が問題になっているが、これも店側が「お客さまは神様」などと甘やかしてきた結果だという意見もある。
一歩でも店に入った以上、店側のルールに従わなくてはいけない。それが守れない者を他の客のためにも出ていってもらう。このような「客を支配する店」であれば、カスハラを未然に防ぐこともできる。ビジネスパーソンが、ラーメン二郎とジロリアンの関係から学ぶことは多い。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受
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