リテール大革命

海外進出後に後悔しないため 工場立地で絶対に外せない「物流の目利きポイント」とは?仙石惠一の物流改革論

» 2025年07月31日 18時00分 公開
[仙石惠一ITmedia]

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連載:仙石惠一の物流改革論

物流業界における「2024年問題」が顕在化している。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する。

 前回の記事に続き「海外での物流を成功させるためのポイント」を紹介していく。

 工場が海外に進出する際にはさまざまなフィージビリティ・スタディ(実現可能性の検証)を行う必要がある。人材の採用、税金を含めた現地の優遇政策、道路やエネルギーなどの社会インフラ、自社の生産をサポートする協力企業の有無――など、数多くの課題を事前に調査しておかなければならない。

 この中のどれもが優先度が高いといえるが、特に物流については工場で生産する限り付いてまわる案件であるため、慎重に調査を進めていく必要がある。そこでここでは、工場立地を決定する際に必要となる物流インフラについて考えていこう。

 まず自社がどのようなビジネスを行うかで、検討の仕方が変わってくる。

 食品や日用品をその国向けに生産するのであれば、消費地に近い所、例えば大都市郊外の立地を考えることになるだろう。一方で、生産品を国内のみならず他国に輸出するとなると、港に近い場所での立地を検討する必要がある。陸路を通って輸出するのであれば、国境近くの立地を考慮することが望ましいかもしれない。

 いずれを検討するに際しても、物流インフラの検討は欠くことはできない。その項目例を示すので、現地物流診断シートに載せて実際にチェックしてみよう。

工場が海外に進出する際にはさまざまなフィージビリティ・スタディを行う必要がある。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:仙石 惠一(せんごく・けいいち) 

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合同会社Kein物流改善研究所代表社員。物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。

1982年大手自動車会社入社。生産管理、物流管理、購買管理を担当。物流Ierの経験を生かし荷主企業や8物流企業の改善支援、各種セミナー、執筆活動を実施。

著書『みるみる効果が上がる!製造業の輸送改善 物流コストを30%削減』(日刊工業新聞社)『業界別 物流管理とSCMの実践(共著)』(ミネルバ書房)

その他連載多数。

工場立地で外せない「現地物流診断シート」

(1)道路インフラ

1. 現有の道路を使って納品場所までの所要時間は目標以内であるか

2. 高速道路のインターチェンジまで目標時間以内で行けるか

3. 道路は舗装されているか

4. 特に混雑するネック(橋や交差点など)はないか

5. 大型トラックが走行できる道路であるか

6. 時間帯による大型トラックの通行規制はないか

(2)鉄道インフラ

1. 鉄道を利用した輸送は可能か

2. 近隣に貨物輸送に適した鉄道駅はあるか

3. 鉄道は旅客優先になっていないか

4. 自工場に鉄道の引き込み線はつくれるか

(3)港湾インフラ

1. 港湾まで目標時間内で行けるか

2. 港湾利用時間に制限はないか

3. 大型船舶が入港できるようになっているか

4. ガントリークレーンの整備状況は十分か

5. 荷役に必要以上の時間を要しないか

 こういった項目について、海外工場支援者の物流担当者は一つ一つ検討していくことが求められる。これらの診断を行うことなくして工場立地を決定付けることはできない。

物流インフラの「将来像」加味して計画を

 物流インフラは何も現状で全て満足していなければならないというわけではない。工場稼働時あるいは稼働後2年以内に条件を満たしていれば問題がないということもあるだろう。

 例えば1年後には道路が拡張されるとか、5年後には目的納品地まで高速道路が建設される予定があるといった、「将来像」も考慮する必要がある。こういった「将来像」については地元政府と話をすることで聞き出すことができる。

 特に工業団地をつくって外資企業を誘致しようと考えている場合には必ずと言ってよいほど物流インフラの「将来像」が描かれているものである。これらを見越したかたちで工場立地を決めることは十分あり得ることである。

 一方、現状で自社の条件を満たす土地であったとしても、将来を考えると別の土地の方が有利になる可能性もある。したがって物流インフラを検討する際には現状の満足度とともに、将来の満足度もあわせて検討しておこう。

現地物流の調達可能性

 工場立地検討に際し、物流インフラとともに現地物流の調達可能性についても調査をしておこう。これについてもいくつかの例を挙げて考えていこう。

(1)物流会社

1. その地域に自社の輸送を担える会社はあるか

2. その地域に自社の構内物流を担える会社はあるか

3. 物流会社の現場マネジメントの水準はどれくらいか

4. 物流会社の価格水準はどれくらいか

(2)物流機器

1. ウイングタイプトラックの調達は可能か

2. フォークリフトの調達は可能か

3. 容器の調達は可能か

4. 保管棚の調達は可能か

(3)物流人材

1. 物流業務経験者の採用は可能か

2. 物流戦略を立案できるレベルの人材はいるか

 これらの物流調達の可能性を検討する際には実際に他企業を見学させてもらったり、物流会社を訪問したりすることが効果的である。

 もし近くに日系企業があればその会社に聞きに行くことも考えてみよう。現地で調達できる範囲で物流業務をできるに越したことはないが、もしどうしても日本で使っている機器が必要であるならば日本あるいは他国からの輸入も検討する必要がある。

 輸入に当たっては輸入規制がないか、コストはどれくらいになるかなど追加で検討する項目が発生してくる。生産を目前に控えていると、このようなことに気付いても間に合わないこともあるので十分に注意したいところだ。

 物流インフラと工場立地は切り離せない関係にある。いったん目論見が外れると生産期間中ずっと苦労し続けることにもなりかねない。海外工場支援者の方には今回の内容を網羅した「現地物流診断シート」をもとに、見落としのないように慎重に検討してほしい。

筆者作成
筆者作成

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