厚生労働省が2023年5月に発表した「第一子出産前後の妻の継続就業率・育児休業利用状況」によると、約7割の女性が第1子出産後も仕事を続けています。女性が出産後、育児休業を取得し職場に復帰する、という状況がようやく大企業だけでなく、中小企業にも浸透してきた印象がありますが、復帰しても小学校入学前の子どもを育てながら以前と同じような働き方をするのは難しい面があります。そこでより子育てと就業の両立を図れるようにしたのが、今回の改正の目的です。
社会保険労務士という仕事柄、顧問先から法改正に関する質問を寄せられますが、最近多く聞かれるのが「同業他社では5つの選択肢の中から何を選ぶのか」という内容です。
今回の改正は労働条件を見直さなければいけないため、ここ数年の法改正の中でも負担は大きいと思われます。企業側としては、負担を増やしたくないが、人手不足の現在、導入する施策によって社員の定着率を減らしたくないというジレンマを抱えているのかもしれません。労働者の立場に立つと、5つの施策の中では、短時間制度のように給与が減ることがなく、子育ての負担を減らしてくれるテレワークの導入や保育施設の設置運営などに魅力を感じる社員は多いように思われます。
筆者の顧問先では、次の2つの施策の導入が高い割合を占めています。
(1)フレックスタイム制もしくは始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げといった、始業時刻などの変更
(5)1日の所定労働時間を6時間以内とする、短時間勤務制度
次いで、(4)月に10日以上の就業をしつつ子を養育することを容易にするための休暇「養育両立支援休暇」の付与です。社会保険労務士の顧問先は圧倒的に中小企業が多いので、大企業では別な結果になるかもしれません。
始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げについては何時間以上しなければならないという制限はありませんが、保育園などの送り迎えが可能な時間帯に設定する必要があります。介護や販売などのサービス業では、テレワークを導入することは現実的でないからです。
保育施設の設置運営などとは、保育施設などの設置や労働者からの委任を受けてベビーシッターにかかる費用を負担することでもよいとされています。とはいえ、昨今の賃金上昇や社会保険料の負担増、ガソリン代の高騰などによる必要経費の増加に悩む中小企業にとって新たな費用負担を賄うのは経営的にも厳しい面があると想定されます。
なお、子育てする労働者について短時間勤務制度をすでに導入している企業もあるでしょう。既存の制度も今回の法改正で求められている制度の1つとしてカウントできるので、新たに2つの制度を導入する必要はありません。
タイミー社の躍進、背景に「短期派遣業の意外なルール」 ただの人材派遣とどう違う?
「転職エージェントの倒産」が急増 人手不足なのに“4年で4倍”に、なぜ?
転職による年収増が過去最高に 「払えない企業」との二極化進むか
派遣社員の平均時給、すでに1500円超 最低賃金1500円は未達なのに、なぜ?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング