「音のコントロールであらゆる日常を整える」をコンセプトにした、ベルギー発のイヤーウェア(耳栓)ブランドのLoop。同社が、F1の歴史で名高いチームのひとつであるマクラーレン・フォーミュラチームとパートナーシップ契約を締結した。
Loopは本社をアントワープに置き、オランダのアムステルダム、米ニューヨークにオフィスを構える。現在までに800万以上の商品を発売し、150カ国以上、700万人以上に愛用されているという。
マクラーレンとのコラボ商品「McLaren F1 Team x Loop Switch 2」は、遮音性能を回転ダイヤルで3段階に調整できる耳栓の最新モデル。音を遮断するのではなく、音を拾い上げるという耳栓の新たな活路を見いだし、耳栓というカテゴリーをよりさらにアップグレードしたカテゴリーの創造を試みる。イヤーウェア(耳栓)というニッチな産業でありながら、売り上げは急成長を遂げている。
販売当初の初年度2018年は、10万ドルだった売上高は2020年に100万ドルと2年で10倍に。2024年には2億ドルとし、4年で約200倍を達成し、破竹の勢いだ。
なぜ、イヤーウェアというニッチな産業で起業したのか。ここまでビジネスを飛躍できた理由は? 耳栓の利用頻度が低い日本市場への戦略を、Loop共同創設者の1人であるディミトリ・オ氏に聞いた。
Dimitri O (ディミトリ・オ)Loop共同創業者。ベルギーのKUルーヴェン大学で土木工学の修士号を取得後、Vlerickビジネススクールにて上級プログラムを修了。電力会社の比較サービス「TariefChecker」を創業したほか、Eneco BelgiumおよびTrinergyにて製品開発や営業で経験を積む。Loopではエンジニアリングとビジネスの知見を生かし、製品の革新とグローバル市場の拡大を推進。スタイリッシュかつ機能的な聴覚保護製品を世に送り出し、世界中で数百万人に利用されている――なぜイヤーウェアをビジネスにしようと思ったのでしょうか?
実は私自身が耳鳴りに悩まされていたことがあります。市販の耳栓を試したもののどれも効果が十分でなく、快適性にも欠けていたことに不満を感じていました。そこで「この問題を解決できる製品を自ら作りたい」と考えたのがきっかけです。
共同創業者であり25年来の親友であるマールテンも私と同様の症状を持っており、2人の経験と工学的バックグラウンドを生かして、「本当に役立つ耳栓」を開発するという目標で意気投合しました。これがLoop誕生の原点です。
――日本では、イヤーウェアのことを耳栓といいますが、日常的に使っている人は限られています。イヤーウェアをビジネスパーソンが活用するとすれば、どのような場面で使われ、どんな時に役に立つとお考えでしょうか。
Loopが目指しているのは、ユーザーの「パフォーマンスを最大限に引き出すこと」です。
私たちの生活は日々とても忙しく、さまざまなノイズに囲まれています。そうした環境下で集中力を保つことは簡単ではありません。Loopの製品は、まさにこの「集中」の助けとなるように設計されていて、仕事や作業においてより高いパフォーマンスを発揮できるようサポートします。これにより、より充実した自分をつくり出すことができます。
2つ目の用途は「睡眠」です。日中に頑張った体と心をしっかり回復させるためには、質の高い睡眠が欠かせません。Loopは、睡眠を妨げる外的なノイズを軽減し、深く安らかな眠りをサポートします。良質な睡眠は、翌日のパフォーマンスにも直結します。
3つ目は「人とのつながり」です。日常生活の中では家族や友人との時間、または特別なイベントなど大切な場面にも、環境によってはノイズが多く発生します。Loopは、そうした場面でも快適に過ごせるよう、ノイズを抑えながら心地よいコミュニケーションを可能にします。
このように「集中」「睡眠」「つながり」の3つが、Loopの価値を支える三本柱となっています。加えて、私たちは騒音が心や身体に与える影響について、世の中でまだ十分に認識されていないと感じています。ノイズがストレスや健康に及ぼす影響に関する知識は、一般的にはまだ浸透していません。
Loopはこの点についても啓発しながら、新しいライフスタイルカテゴリを創り出そうとしています。多くの人がノイズ=騒音と捉えられていますが、実はノイズは心理的・身体的にも影響を与えるものであり、知らず知らずのうちに私たちの健康や感情に作用しています。
「うるさい場所にいたあと、帰ってくるとどっと疲れている」という経験をしたことがある人は多いと思いますが、それをノイズによる影響として意識している人は意外と少ないのです。Loopでは、こうした無意識の不快体験を可視化し、人々に気付きを与えることに着目しています。
――今回、マクラーレン社とパートナーシップを結ばれました。接点がなさそうな業界同士ですが、狙いは?
Loopの理念としては、スティグマや既成概念を打ち破り、普通は憚(はばか)られることを変えて製品作りに臨んだところがあります。同時に、素晴らしいブランドブランドストーリーを作ることも重要視しています。そこで、その「既成概念や固定観念を変えるにはどうすればいいのか」の糸口が、パートナーシップでした。
Loopの製品は、ミュージシャンや俳優、スポーツマン、起業家と多くの方に使用していただいています。その中でスポーツ分野を切り出してみると、最もエキサイティングで最も限界を超えることに挑戦するスポーツがF1でした。そこにマクラーレンの精密にパフォーマンスを求める姿勢が、当社の価値観と合致していて、パートナーシップにふさわしいと考えました。
まさに今の段階でLoopとしてマクラーレンというビッグネームと手を組むことは、われわれの進化のストーリーを表すものなのです。
――4年で売り上げを約200倍まで伸ばしています。プロダクトマーケティングはどのようにやりましたか?
マーケティングにおいては、いくつかの要素があります。最も重要なのは「人間の基本的なニーズに応えること」「そのメッセージが多くの人に共感されること」です。
私たちはパフォーマンスマーケティング、インフルエンサーマーケティング、(特に欧州市場への展開を支援する)TOLマーケティングを戦略的に組み合わせ、グローバルで効果的なコミュニケーションを展開してきました。その結果、多くの国や地域で共感を得ることに成功しています。
中でも、インフルエンサーマーケティングに力を入れています。私たちが特にインフルエンサーを起用する際に重視しているのは、「知名度」ではなく「信頼性」です。その人の言葉を信じるファンやフォロワーがいるかどうかがポイントです。実際に製品を試してもらい、自身の体験としてどのように役立ったか、どんな効果があったのかをリアルに語ってもらう。そうした「信頼できるストーリー」が、人々に深く響くと考えています。
この方針のもと、私たちは四半期ごとに何百もの小規模なキャンペーンを展開しています。日本国内でも同様で、著名人というよりは、誠実に自分の言葉でストーリーを伝えられる方に協力してもらっています。
――日本市場での売上高は現時点で全世界の3%であり、今後の目標は10%だそうですが、今後の戦略やターゲットなどはどのようにお考えですか。
オフィスなどで耳に何かを入れている人の半数は、音楽を聴いているわけではなく、ノイズキャンセリングのためだけに装着しているというデータもあります。すでに人々の間では「音を遮断する必要性」についての理解や認識はあるのです。その手段として現在は「充電式のイヤホン」や「耳栓」に限られているというのが現状です。
Loopの顧客の約50%は「耳栓を買ったのが初めて」という人たちであり、耳栓自体、未経験な人が多い市場です。Loopのブランドの確立も大事ですが、まずは新たなカテゴリーを築き上げ、より多くの人に快適な音環境を提供していきたいと考えています。つまり、Loopというブランドを単に広めるのではなく、カテゴリーそのものを創造すること、つまり新しいマーケットを形成し、認知度を広めていくことが重要と捉え、段階的なアプローチをしながら目指していきたいと思っています。
この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ
ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。
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