2024年は、国内大手がDXブランドを相次いで立ち上げた年だ。5月にはNEC「BluStellar」(ブルーステラ)、三菱電機「Serendie」(セレンディ)、KDDI「WAKONX」(ワコンクロス)がそれぞれ立ち上がった。いずれも単なる営業目的ではなく、顧客の課題解決に主眼を置いているのが特徴だ。
国内電機大手をはじめとして、DXなどデジタル関連の事業やサービスをブランド化する動きが広がっている。日本企業のDXを担う“旗手”たちはどんな強みを持ち、日本企業をどのように変えていこうとしているのか。その未来像とは? 各社のキーマンに聞いた。
1回目:本記事
2回目:なぜ富士通「Uvance」は生まれたのか サステナビリティに注力する強みに迫る
3回目:NEC 12月23日公開予定
各社がブランドを立ち上げる中、それぞれどんな違いや特徴、強みがあるのか。どんなビジョンを描いているのか。連載「変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜」では、各社のDXのキーマンに展望を聞いていく。最終回では、各社の違いを考察する。
初回で取り上げるのは、12月16日に約4年ぶりの社長交代を発表した日立製作所だ。同社は8年前の2016年に、DX支援ブランド「Lumada」(ルマーダ)を展開。今や日立の売上高で「4分の1以上」を占めるまでに成長した。
Lumadaは「Illuminate」(照らす・解明する・輝かせる)と「Data」(データ)を組み合わせた造語だ。日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称となっている。顧客のデータに光を当て、新たな知見を引き出すことによって、経営課題の解決や事業成長に貢献することを目指す。
なぜ日立は2016年の段階で、ブランドを立ち上げられたのか。Lumadaの推進に関わる、デジタル事業開発統括本部の重田幸生さんと、Lumada戦略担当部長の江口智也さんに聞いた。
重田幸生 日立製作所デジタルエンジニアリングビジネスユニットExecutive Director。2003年、日系シンクタンクのコンサルティング部門に入社。同社のパートナーとして電機・機械・エネルギー業界を中心に経営コンサルティング活動に従事。2023年4月、日立製作所に入社。現職にて、日立グループ内外のデジタルソリューション・ケイパビリティを組み合わせて顧客の事業成長・変革を支援。そのための案件・顧客開拓活動、協業活動を主導する。東京工業大学工学院サステイナビリティチャレンジにてメンター代表、審査委員も務める
江口智也 日立製作所 デジタルエンジニアリングビジネスユニット Strategy & Planning Lumada Strategy 担当部長 兼 日立デジタル Lumada CoE 担当部長。2004年、外資系のシステムエンジニアリング部門に入社。2010年からは日系Sier企業で、ITソリューション事業開発に従事。2016年4月、日立製作所に入社。以来、日立グループ内外でのLumada啓発活動、デジタル戦略の立案・実行、Lumada事業推進上の課題解決(デジタル人財育成など)、さらにはLumadaのブランディングおよびコミュニーション戦略立案を統括する活動に従事――日立は2016年にLumadaを立ち上げました。近年多くの国内大手がDXブランドを立ち上げている中、その「原型」とも言え、とても高い完成度を誇っています。どのような経緯で始まったのでしょうか。
重田: 当時、私は日系コンサル企業にいて、経営コンサルの立場で電機業界に関わっていました。日立とも仕事をしていたので、Lumadaの動きもよく見ていたのですが、2023年に日立に入社し、Lumadaの推進に直接関わることになるとは、当時は思ってもいませんでした。
2016年当時、米GEの「Predix」(プレディックス)や独シーメンスの「MindSphere」(マインドスフィア)といった、産業機器などから得られるビッグデータによってDXを推進する「IoTプラットフォーム」と呼ばれる取り組みが盛んでした。機器から上がって来るデータを可視化して顧客に提供したり、機器の運転を最適化したりする仕組みですね。日立のLumadaを聞いたときには、同種の取り組みなのだろうと思って見ていましたが、少し違いました。
Lumadaもローンチ当初はIoTプラットフォームとして打ち出していましたが、さらに顧客の課題や、やりたいことなどをプロトタイピングで検証しながら、いかにして具現化するかという仕組みでした。あくまで課題解決ドリブンです。何か定型のIoTプラットフォームを売るものではない点で、他社とは違いました。
――Lumadaでは2016年当時から、今に通じる課題解決ドリブンの発想や構想があったわけですね。
重田: 2016年当時は、オープンソースソフトウェア(OSS)やビッグデータ、AI活用を推進していた時代でした。新たに得られるデータから「こういう課題がありますよね。機器からこういうデータが上がってきますよね。このデータはこういう風に解釈するといいですよね」と言って、顧客に応じたソリューションを提供するという発想から始まりました。
ただ、これは顧客ごとに一から組み立てるものではなく、日立のこれまでのユースケースやナレッジの中から、やりたいことに合わせて組み合わせて提供するものになっています。テクノロジーの引き出しをたくさん持っていても、正しい使い方が分からないと、顧客の課題を解決できません。その点、日立には使いこなしの技術がある。日立のこれまでのノウハウを、顧客の課題解決に積極的に生かすわけですね。
――この考え方は2016年から変わっていないのですか。
重田: Lumadaは時代の趨勢に合わせて変えている部分はありますが、大きな考え方は変わっていません。やりたいことの基本的な考え方、コンセプトは今とほぼ同じですね。そこから、われわれの得意な領域から重点的に進めています。
Lumadaでは現在、約1400件のユースケースがあります。ユースケースは業界と課題別に社内で検索できるようにしています。例えば製造業のこういう業種の物流の課題だとしたら「こういうLumadaのソリューションがありますよ」と顧客に素早く提案できます。
その後、顧客から、以前と同様の施策をして、うまくいかなかった取り組みを聞いていき、課題点を特定してクリアにしていきます。そしてそれに対して「こういう打ち手がありますよ」といったように、コンサルティング的な形で進めていくのが、Lumadaの一例だと思います。
――服で例えると、フルオーダーメードではなく、パターンオーダーメードのような感じですね。
重田: そうですね。オーダーメードで一品一品作っていると効率が上がりません。そこでコンポーザブル(構成可能)に部品化して進めています。できるだけ効率的に進めるために、2016年に「サービス&プラットフォームBU(ビジネスユニット)」を作りました。そのBU長が、当時専務だった小島啓二社長でした。Lumadaの立ち上げと同時に、組織に横串を通して社内の知見を集めたんですね。バラバラに顧客と対峙して、オーダーメードでやっていたらダメだし、一方で既製品の大量販売のような形にしてもダメです。当初から部品化して、コンポーザブル化して組み合わせてソリューションを提案するコンセプトにしています。
――2016年当時の課題意識として、日立はどのようなことを抱いていたのでしょうか。
重田: それまでの当社の営業は、顧客が求めている希望に対し、製品をカタログで説明して「この性能で合いますか? 合いませんか?」というようなやり取りをして販売するスタイルを取っていました。営業スタイルは変わってきましたが、今でも顧客から「Lumadaという商材のカタログはないですか?」という問い合わせをいただくことがあります。
しかしLumadaは、このスタイルとは異なります。われわれは「NEXPERIENCE」(ネクスペリエンス)と呼んでいるのですが、顧客の課題を解きほぐして明らかにしていく一連の方法論を社内で整えています。
江口: ネクスペリエンスはいきなり生まれたものではなく、もともとは日立の中に「デザイン本部」があり、家電などのデザインを手掛けていた人たちが、顧客の課題起点でサービスデザインをするための方法論から始まっています。ですからLumada以前からカスタムメイド的な発想が、社内にはあったわけです。ネクスペリエンス自体は、Lumadaが始まる前年の2015年に始まっています。
実はLumada以前からこうしたケイパビリティは日立の各部署にあったものの、組織横断で横串を通せていなかったのです。小島社長は、Lumadaによってここをつなげました。
――Lumadaによって、日立の3万人近い社員のノウハウを集約化したわけですね。
江口: ネクスペリエンス以外でも、日立の各BU、当時はカンパニー制でしたけど、各カンパニーでは課題解決型の事例はあったものの、一元的にまとめられていませんでした。これを一元的にして「日立の中で見られるようにしよう」「それを誰がやったのかを分かるようにしよう」というのがLumadaの狙いだとも言えます。
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