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日立、米IT「1兆円買収」でどう変身? 文化の違いを“シナジー”に変えた手腕「シリーズ 企業革新」日立編(1/2 ページ)

» 2024年05月30日 08時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

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 日本の製造業で2009年当時、史上最大の赤字を出したことを転機に、社会イノベーション事業に振り切ることで再成長を果たした日立製作所。「シリーズ企業革新」日立編では、大胆な構造改革を断行したスマトラプロジェクトやDX、そして日立のビジネスを大きく変えているLumada(ルマーダ)事業のビジネスモデルについて伝えてきた。

「シリーズ 企業革新」

好業績でまい進する企業や、自己変革を通じて成長の芽を作った企業の裏側を深堀りしていくシリーズ企画。伝統と歴史を持つ企業は、いかにして組織変革を成し得たのか。改革の中でどんな壁が立ちはだかり、どのように乗り越えたのか。第1弾は日立製作所の取り組みを追う。

1回目:日立の好調を支えるLumadaとは

2回目:V字回復を支えたコスト構造改革とDX

3回目:Lumadaが変えた日立のビジネス

本記事: “1兆円買収”で日立はどう変わったのか

5回目:日立とGlobalLogic Japanが推進する日本企業のDX

 4回目はLumada事業をさらに成長させている取り組みとして、2021年に約1兆円を投じて話題になった、米GlobalLogic買収のその後に迫る。日本を代表する製造業だった日立が、デジタルエンジニアリングやアジャイルによるアプリケーション開発に強みを持つGlobalLogicと、いかにして融合を図っているのかを見ていきたい。

日立デジタル CHROオフィス シニアダイレクターの荒川奈津子氏(左)と、日立デジタル シニアバイスプレジデントの佐佐木秀貴氏

 話を聞いたのは米シリコンバレーにいる2人。日立デジタルで統合作業(PMI)を担当し、GlobalLogicにも籍を置いて戦略面を担う佐佐木秀貴氏と、人財戦略を担当する荒川奈津子氏に、GlobalLogicとの合流で直面した困難やビジネスの変化などについて話を聞いた。

佐佐木秀貴(ささき・ひでたか)日立デジタル シニアバイスプレジデント。日立デジタルでGlobalLogicと日立の統合作業(PMI)の現場をリードし、シナジーを創出できる仕掛けや体制作りに取り組む。同時に、GlobalLogicでもCEOオフィスでシニアバイスプレジデントの役職に就き、戦略面を支援している
荒川奈津子(あらかわ・なつこ)日立デジタル CHROオフィス シニアダイレクター。デジタル人財の採用や育成強化をリードし、現在は日立デジタルとデジタルエンジニアリングビジネスユニットの立場から、GlobalLogicの人財戦略や組織運営を日立内に取り込むことを試行するとともに、日立のOT×ITのビジネスを推進するためのデジタル人財育成も強化している

規模も文化も大違い 見いだした「共通点」とは?

 日立がGlobalLogicの買収を完了したのは2021年7月。約1兆円にのぼる巨額を投じて新興ITサービス企業を買収したことに注目が集まった。

 GlobalLogicは、2000年に創業した米カリフォルニア州サンノゼに本社を置く。ドイツ、ウクライナ、ポーランド、インドなど世界各地にデザインスタジオやソフトウェアエンジニアリングセンターを展開している。従業員はエンジニアを中心に約3万人を抱え、平均年齢は20代後半と若い。顧客が抱える課題の解決策を企画するデジタルエンジニアリングと、アジャイルによるデザインとアプリケーション開発に強みを持つ。

 日立はGlobalLogicを買収後の2022年4月、PMIを進めるとともにグループを横断してグローバルでデジタル戦略を推進する組織として、シリコンバレーに日立デジタルを設立した。買収決定後からPMIを担当している佐佐木氏は、GlobalLogic買収の意義を次のように説明する。

 「日立グループはこれまでの10年間で構造改革をして、経営のグローバル化をしながら成長への基礎固めをしてきました。次の10年間は、データとテクノロジーによってサステナブルな社会を作るとともに、売り上げの拡大と収益の向上を両立していくために、グローバルのDX市場でLumada事業を飛躍的に成長させていくことを目指しています。Lumada事業が大きな成長を遂げるためのドライバーとして買収したのがGlobalLogicです」

 Lumada事業はデジタルエンジニアリングと、システムを構築し実装するシステムインテグレーション、自動化や遠隔化を実行するコネクテッドプロダクト、保守にあたるマネージドサービスの4つのサイクルをデータで回す循環型のビジネスモデルだ。

 GlobalLogicが得意とするデジタルエンジニアリングは、日立グループ内でも担当者はいたものの人数は十分と言えなかった。荒川氏は買収により人事面でのメリットが出ていると話す。

 「デジタルに舵を切って成長しようとしたときに、以前から研修やOJTによって人財を育成してはいたものの、急に人を増やすことはできません。そこで、デジタルの知識もスキルも持っていて、デジタルエンジニアリングやアプリケーション開発もできるGlobalLogicを仲間に入れることによって、一緒に成長していくことを目指しました。結果的に、GlobalLogicのメンバーがいいお手本になり、今まで地道に取り組んできたメンバーにも大きな変化が生まれています」

Lumadaの4つのステップ(出典:日立製作所)

ギャップがある一方で共通点も

 日立にとってGlobalLogicは、Lumada事業の成長を拡大するための重要なピースだ。ただ、買収を決定した2021年度のGlobalLogicの売上高は12億米ドル(当時のレートで約1300億円)に過ぎず、企業の規模も違えば、企業文化も日立とは大きく異なっていた。佐佐木氏は当初感じたギャップを次のように表現した。

 「GlobalLogicは売上高も利益も年20%以上伸ばしている成長企業で、特に意思決定と実行のスピードは早いです。デジタルエンジニアリングの企業なので、重要な案件と担当する人財のマネジメントを精緻に行う必要があります。にもかかわらず高い成長率を実現できているのは、マネジメントが徹底しているからです。裏を返せば、無駄なことをしていないとも言えます。やることを決めて、決めたことを実行するのが早い。その一方で、やらないことを決めるのも早い。この時間軸が、日立とは大きく異なっていました」

 一方で佐佐木氏は、当初から意外な共通点があることに気付いていた。この共通点が、PMIを進められた背景になっていると話す。

 「買収した直後にGlobalLogicの本社を初めて訪れたとき、4点のコアバリューを掲げているのを見て『あっ』と思いました。その4点はopenness、integrity、innovation、teamworkです。弊社には創業以来の企業理念の日立グループ・アイデンティティーがあります。その中には“優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する”MISSIONや、MISSIONを実現するために大切にしていく“和・誠・開拓者精神”のVALUESが体系化されています」

 企業文化の違いがある中で、その理念の根本には相通じるところがあったのだ。

 「このアイデンティティーとコアバリューを並べると、和はopennessとteamwork 、誠はintegrity 、開拓者精神はinnovation と、きれいにかみ合っていることに驚きました。私は買収の決定には関わっていないので、当時の経営陣がどこまで見ていたのかは存じ上げませんが、これらの点がしっかりかみ合っているのは、PMIを進めていく上で重要だったと感じています」

日立グループ・アイデンティティー(出典:日立製作所)
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